及川直彦のテキストのアーカイブ

及川直彦が書いたテキストと興味を持ったテキストのアーカイブ

精緻化見込みモデルもしくは二重過程理論についてのメモ

昨晩のゼミでは、メンバーと購買行動プロセスについてしみじみと考えたのですが、その際に論点となった「精緻化見込みモデル」について補足資料を探していたら、日本マーケティング学会の「マーケティングジャーナル」によく整理されたレビューがありました。
"精緻化見込みモデルでは,人間の情報処理は, 「中心ルート」と「周辺ルート」を経て行われ,態度変容が起こるとされている。中心ルートによる情報処理では,認知的労力を要し,比較的多くの情報処理活動を行う。その一方で,周辺ルートによる情報処理では,認知的労力を要さない情報処理を行う。" ”中心ルートの情報処理では,問題や意見の中心的なメリッ トやデメリットなど,メッセージの本質的な内容を精査し,その内容が態度形成に影響を及ぼす。一方の周辺ルートの情報処理では,情報の送り手の魅力や専門性など,メッセージの本質的な内容とは関係のない,周辺的手がかりが態度形成に影響を及ぼす。”
このモデルは、行動経済学者のダニエル・カーネマンのベストセラー「ファスト&スロー」で有名になった「システム1」(高速で,並列的,自動的,努力を要さない,連想的,学習が遅い,情動的という特徴があり,直感型の情報処理)と「システム2」(低速で,逐次的,制御的,努力を要する,規則に支配される,柔軟的,中立的などが特徴として挙げられる,熟慮型の情報処理)の二つの思考モードの概念とも近いです。
ざっくりと言ってしまえば、「中心ルート」≒「システム2」、「周辺ルート」≒「システム1」と理解していただければよろしいかと存じます。
昨晩のゼミのメンバーの議論をまとめると、
1) 広告に接する場面では、生活者は「周辺ルート」「システム1」であることが多く、そのような場面において「中心ルート」「システム2」による情報処理を期待すると、広告が期待した効果を得られなくなる。そこで、広告のクリエイティブのプロフェッショナルたちは、「周辺ルート」「システム1」の生活者を情報処理に誘導する表現・コンテンツを創るよう工夫をしている。
2) その一方で、オンラインで情報を能動的に探索する場面では、生活者は「中心ルート」「システム2」であることが多く、そのような場面においては、検索エンジンやオンライン上のクチコミの情報が有効に機能する。
3) カテゴリーに対する関与水準が低い場合には、「中心ルート」「システム2」を経ずに、「周辺ルート」「システム1」だけで購買を決定することもしばしばあるが、カテゴリーに対する関与水準が高い場合には、「中心ルート」「システム2」が入ってくる。
4) カテゴリーに対する関与水準が高い場合には、検索エンジンが使いやすくなり、オンライン上のクチコミの情報が豊富になってくる中で、「周辺ルート」「システム1」の生活者を情報処理に誘導する表現・コンテンツの影響力が相対的に下がってくる可能性がある。
といったところでしょうかね。

(2020年5月30日にFacebookに投稿したテキストを再掲)