Waseda Business Schoolの修了生との勉強会で、ここのところダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」を輪読しているのだが、その中で、「繰り返された経験」が「認知容易性」を高めるという話について議論している中で、広告における「フリークエンシー」がその例であるが、その一方で、あまり繰り返しが多い広告って飽きるよね、という話を聞き、嶋村和恵先生の「新しい広告」に紹介されている、Heflin & Haygood (1985)の”Theoretical model of processes affecting memory for advertisement”を思い出したので、オリジナルの論文を読んでみた。以下はその要約である。
調査の概要
- 対 象: Arizona State Universityの心理学の授業履修者139人
- 素 材: 自動車アクセサリー、百貨店、レストランのテレビ広告(他の地域で事業展開・放映されていて地元にないブランドのもの)
- 方 法: 対象にシリーズもののメロドラマ番組(総放映時間2時間半)を評価するタスクをアサイン。その番組の中に、全国展開されているテレビ広告と組み合わせて、素材となるテレビ広告を挿入、以下の4つの説明変数で視聴するグループに分ける。
- 説明変数: (a)1日に全て放映 (b)1週間で3日間に分けで1時間、1時間、30分で視聴 (c)3週間で毎週1日ずつに分けて1時間、1時間、30分で視聴 (d)5週間で毎週1日ずつに分けて30分ずつ視聴
- 目的変数: 素材のブランドの再認(recognition)率と再生(recall)率
調査の結果
- 1日という短い期間に集中してテレビ広告に接触した場合と、5週間という長い期間に分けてテレビ広告に接触した場合は、再認率及び再生率が悪かった
調査の結果から推定されるモデル(”Theoretical model of processes affecting memory for advertisement”)
- 短期に集中させるほど素材に対して飽和・飽き・回避(Satiation/Boredom/Avoidance)するようになる
- 長期に分かれるほど素材を前に見たことを忘却・記憶抑制(Forgetting/Interference)するようになる
- 両者の効果が組み合わさることで、記憶曲線(memory curve)となる
テレビ広告だけでなく、今日的なデジタル広告においても、飽和と忘却が形成する逆U字型の記憶曲線は当てはまりますね。
資料: Heflin, Debbora TA, and Robert C. Haygood. "Effects of scheduling on retention of advertising messages." Journal of Advertising 14.2 (1985): 41-64.