及川直彦のテキストのアーカイブ

及川直彦が書いたテキストと興味を持ったテキストのアーカイブ

統計的有意とともに効果量も大事

定量的な研究において、データの分析の中で統計的有意が論点となることが多いのですが、それに対して、統計的有意の検定とともに、効果量と信頼区間を示すことの重要性が指摘されています。

この指摘を解説した本として、 大久保街亜・岡田謙介 (2012) 『伝えるための心理統計』勁草書房 がわかりやすいのでおすすめします。

この本から以下引用します。

" 最近,統計解析やその結果の記述に関して, 「改革」 が進んでいます. 主に論文投稿の規則に関して, 改革は今でも進行中です. その結果,帰無仮説検定に対する過度な依存が少しずつ弱まってきました. たとえば, 論文を投稿する際,  原稿に帰無仮説検定の結果しか記載しなかったら, (国際的な論文誌で) 採択される可能性は高くないでしょう. 少なくとも審査の過程で何らかの指摘を受けると思います (そのような例を多々見てきました).実際,多くの論文誌では, 帰無仮説検定を行う場合, あわせて効果量の報告を義務づけています. 国際的な論文誌の最新号を手にとって見てください. 結果のセクションには, 必ずと言ってよいほど, 効果量が書かれているはずです." (p.2)

" APA(アメリカ心理学協会) の推測統計に関する専門委員会は, 帰無仮説検定への疑問や批判を整理しただけでなく, 改善に向けて具体的な提案を提示しました. その検討結果は  「心理学論文誌における統計の方法: ガイドラインと説明 (Statistical methods in  psychology journals: Guidelines and explanations)」 と題され, American Psychologist に  発表されました (Wilkinson & APA Task Force on Statistical Inference, 1999). この論文  では, データの分析において, (1) 必要最小限の分析を選択すること, (2) 信頼区間 (confidence interval,以下CI と略す) を使用した区間推定を行うこと, (3)  重要な知見あるいは p値を報告するときは必ず効果量を報告すること, (4) 分析の前提が充たされていることをきちんと示すことの 4点が主に述べられました. これらの提案は, 帰無仮説検定だけを重視してきた心理学における推測統計のあり方に, 一石を投じるものとなったのです."(p.15)

" 彼 (Geoffrey Loftus) は, 1993年に  Memory & Cognition誌の主任編集者に就任しました. そして, いくつかの画期的な編集方針を打ち出したのです. まず, データの分析において, ただ闇雲に t値や F値を計算し, p値を報告する帰無仮説検定への過度の依存を問題視しました. そして, このような悪しき習慣を続けるよりも, 適切にデータを図示することが有益だと主張しました. 百聞は一見にしかずということわざがあります.  Loftus によれば, 「図は 1000個の p値に勝るのです (A picture is worth a thousand  p-values, Loftus, 1993, p.3)」. Loftus は, データの図示の有用性を強く主張しました. 特に, 論文中の図で, 必ず誤差範囲を載せるように著者に求めました. また, Loftus & Masson (1994) は, 帰無仮説検定に代わるアプローチとして, CI の使用を強く推奨しました." (p.16)


ちなみに、「心理学論文誌における統計の方法: ガイドラインと説明」は、以下のリンクから閲覧することができます。

http://www.mobot.org/plantscience/ResBot/EvSy/PDF/Wilkinson_StatMeth1999.pdf

 

定量研究においては、p値とともに、信頼区間付きの効果量のグラフを書きましょう。