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柄谷行人の「世界史の構造」の復習

柄谷行人(2022)『力と交換様式』 岩波書店 を読む前提として、この議論のベースとなっている、柄谷行人(2010)『世界史の構造』 岩波書店から、交換様式A-Dと、それと対応する権力(力)の種類、歴史的/近代の社会構成体、世界システムについて、以下整理しました。

 

 

A

B

C

D

交換様式

互酬
世帯や数世帯からなる狩猟採取民のバンドが、外の世帯やバンドとの間に恒常的に友好的な関係を形成するときに行われる、贈与と返礼など

略取と再分配
ある共同体が他の共同体の略奪を継続的にしようとするときに行われる、服従する共同体の他の侵略者からの保護や、灌漑などの公共事業

商品交換
共同体に拘束されない自由な存在である個人の間の、相互の合意に基づく取引。貨幣と商品の交換が一般的

X
交換様式Bがもたらす暴力への服従や身分の分裂、交換様式Cがもたらす階級分裂を超えて、交換様式Aを、伝統的共同体への拘束を否定しながら高次元で回復するもの

権力(力)の種類

拘束
各員は、生まれながら贈与された共同体に返済する義務を負い義務(掟)を破ると共同体から見放されることによる拘束

暴力
- 共同体を超えた共同規範(法)を機能させるために国家権力によって独占された実力(暴力。この実力はつねに法を介してあらわれる
- 支配者と被支配者の間で身分が分裂

貨幣の力
- 貨幣の所有者が商品の所有者に対してもつ権利。貨幣は蓄積できるが、商品は貨幣と交換されなければ廃棄されるほかないことから、貨幣の所有者が優位
- 貨幣の所有者は、他者を物理的・心理的に強制することなく、交換によって使役ができるようになり、貨幣を多く所有する者とそうでない者の間で階級が分裂

"神の力"
人間の願望や自由意志を超えた至上命令としてあらわれる

歴史的な社会構成体
(政治的な上部構造/
生産様式の下部構造)

無国家/氏族社会

- アジア的国家/王ー一般敵隷属民(農業共同体)
- 古典古代国家/市民ー奴隷
- 封建的国家/領主ー農奴

近代国家/資本ープロレタリアート

普遍宗教の創始期に存在した共産主義的な集団に近いもの

近代の社会構成体

ネーション
社会構成体の中で、資本=国家の支配の下で解体されつつあった共同体あるいは交換様式Aを、資本制の階級対立や諸矛盾を超えた共同性をもたらすために、想像的に回復する形であらわれるもの

国 家
「略奪と再分配」が「国家への納税と再分配」となり、王に代わって主権者となった「国民」は彼らを代表する政治家及び官僚機構のもとに従属すると形を変えながら存続するもの

資 本
贈与原理に基づく一次的な共同体の拘束から自由な存在である個人が自発的に形成したもの、例えば都市など。ただし、都市も二次的な共同体としてその成員を拘束するものとなる

X
自然発生的な評議会コミュニズム、共通の目的・関心を持つ者が集まり結びつくアソシエーションに近いもの

世界システム

ミニ世界システム
国家が存在しない世界

世界=帝国
単一の国家によって管理されている状態の世界

世界=経済(近代経済システム)
政治的に統合されず、多数の国家が競合しているような状態の世界

世界共和国
軍事的な力や貨幣の力によってではなく、贈与の力によって形成されるもの


柄谷行人 (2010) 『世界史の構造』 岩波書店 pp. 3-44.