及川直彦のテキストのアーカイブ

及川直彦が書いたテキストと興味を持ったテキストのアーカイブ

「ネットワーク効果」についてのメモ

数多くのMEGA TECH企業を育ててきたことで知られるシリコンバレーのベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のゼネラルパートナーのAndrew Chenが書いた「ネットワークエフェクト」が、今日的なTECH企業の思考の本質を捉えていた本でした。

どの部分も面白いのですが、その中から、世の中でいわゆる「ネットワーク効果」と呼ばれているものを3つの効果に分類し、それらをどのように加速させるかを提示している部分をメモ。

 

3つの効果:

  • ユーザー獲得効果: ネットワークが広がるほど既存ユーザーからの口コミや紹介による新規ユーザーの獲得が促進される効果
  • エンゲージメント効果:ネットワークが密になるほどユーザーの利用頻度が高まり、製品から離れにくくなる効果
  • 経済効果: ネットワークの拡大とともにコスト構造と利益が改善し、収益を上げやすくなる効果

 

加速させるアプローチ:

  • ユーザー獲得効果を加速させるアプローチ
    • 前提となるモデル: ネットワークが広がる→サービスを知る→登録・利用する→知覚品質が高まる→友人や同僚に紹介しようと動機づけられる→紹介を実行する
    • 加速させるアプローチ
      • ユーザーが製品を利用・推奨している場面を見極め、プロセス(バイラルループ)の各段階の改善機会を探索する
      • 見極められた利用・推奨場面や、探索された改善機会に適合する施策を立案し、A/Bテストなど活用しながら検証し、効果が高いものを特定し本格展開する
      • 効果の変化をモニタリングしながら、新たな施策を追加し、施策のポートフォリオをアップデートしていく
      • PayPalが、eBay上でオークション取引で「PayPal払いを受け付けます」と書かれた商品ページが数多くあることに気づき、出品者がeBayの認証情報を入力すると全出品ページに自動で「PayPal払いOK」のバッジを掲載する機能を追加する
      • PayPalにおいて、ユーザーが送金したい相手の友人を招待する行動をとっていたが、それを加速するために、友人を招待したユーザーと招待された人に同時に10ドルをアカウントに付与するキャンペーンを展開する

 

  • エンゲージメント効果を加速させるアプローチ
    • 前提となるモデル: ネットワークが広がる→用途が生まれる→知覚品質が高まる→ユーザーの利用頻度が高まる→用途が増える→知覚品質がさらに高まる→ユーザーの利用頻度がさらに高まる
    • 加速させるアプローチ
      • ユーザーを分類し、それぞれのグループのユーザーごとの属性やモチベーション、利用目的を把握し、それらに適合した機能や情報を見極め、プロセス(エンゲージメントループ)の各段階の改善機会を探索する
      • 見極められた機能や情報、探索された改善機会に適合する施策を立案し、A/Bテストなど活用しながら検証し、効果が高いものを特定し本格展開する
      • 効果の変化をモニタリングしながら、新たな施策を追加し、施策のポートフォリオをアップデートしていく
      • Dropboxにおいて、複数デバイスで利用していて、仕事で他のユーザーとフォルダを共有し共同作業をしているユーザーが価値の高いグループであることが特定されている。この洞察に基づいて、開発のロードマップにおいてファイルの同期や共有作業の機能の改善にフォーカスし、複数デバイス間で同期を簡単に設定する方法を教えるコンテンツを見せる施策や、適切に設定したユーザーにストレージ容量を無料追加するインセンティブを提供する施策を検証し、効果が高いものを本格展開する
      • Slackにおいて、投稿するとポジティブな反応が見え、それが心理的な報酬となってまた投稿をしたくなるというプロセスがあるならば、ポジティブな反応を簡単に送り合う機能(例: 絵文字の「いいね!」)の強化にフォーカスする 

 

  •  経済効果を加速させるアプローチ
    • 前提となるモデル: ネットワークが広がる→知覚価値が高まる→許容価格が高まる(例: 無料→有料)→課金する→ハードサイドのユーザー(多くの労力を割いてネットワークに貢献してくれるが、集め、定着させるのが難しいユーザー)に分配する収益を確保する→ハードサイドのユーザーの参加を動機づける→ハードサイドのユーザーの参加を高める→さらに知覚価値が高まる
    • 加速させるアプローチ
      • ユーザー獲得効果とエンゲージメント効果を加速する(上記)を前提
      • 許容価格の高い状態になっているユーザーを見極め、適合する料金体系を設計する
      • ハードサイドのユーザーに参加を動機づける施策を立案する
      • Slackにおいて、社内のユーザーが増えた企業に対して、部門を横断したメッセージの検索機能や質の高い音声通話機能を実装した有料プランへの切り替えを提案する
      • Uberにおいて、乗客の依頼に応えるために十分なドライバーを確保するために、ドライバーの報酬保証制度(Uberで運転すると4週間は時給30ドル分の報酬を保証するキャンペーン)、競合他社よりも高い報酬を保証する施策、「X回乗客を載せたら報酬にYドルを追加」などインセンティブ施策を強化する


構成概念の一部(例: 「経済効果」)が、複数の概念が混ざっていてややキレがやや良くないところなど、経営学の文献として読むのには若干の課題はありますが、それでも、この本が、今日的なTECH企業の思考の本質を捉えた良書であることに変わりはありません。