及川直彦のテキストのアーカイブ

及川直彦が書いたテキストと興味を持ったテキストのアーカイブ

集合体(=アジャンスマン、アサンブラージュ、アレンジメント)の定義と二軸の説明の例

 Hoffman and Novak (2018)の、スマート・オブジェクトと消費者の間の相互作用を集合体理論(assemblage theory))によって記述するパースペクティブを提案した論文をきっかけに、ドゥルーズとそれを解釈したデランダの集合体(=アジャンスマン、アサンブラージュ)とそれを方向づける二軸についての議論から、比較的定義に近い説明の例をメモ。

集合体(=アジャンスマン、アサンブラージュ、アレンジメント)についての説明の例

Deleuze, Gilles, and Félix Guattari (1980). Mille Plateaux. Paris: Les Editions de Minuit. (宇野邦一他訳『千のプラトー』河出書房新社, 1994年)における説明の例:

”それは一個の多様体なのだ──とはいえ〈多〉が、もはや何にも帰属しないとき、つまり実詞の状態にまで高められるとき、何をもたらすか、まだわかっていないのだ。機械状アレンジメントは地層の方へ向けられており、地層はこのアレンジメントをおそらく一種の有機体に、あるいは意味作用を行なう一個の全体に、あるいは一個の主体に帰属しうる一つの規定にしてしまう。しかしこのアレンジメントはまた器官なき身体の方へも向けられており、こちらはたえず有機体を解体し、意味作用のない微粒子群や純粋な強度を通わせ循環させ、そしてみずからにもろもろの主体をたえず帰属させ、それらの主体には強度の痕跡として一個の名だけを残すのだ。”

DeLanda, Manuel (2006), A New Philosophy of Society: Assemblage Theory and Social Complexity, London: Continuum.(篠原雅武(2015)『社会の新たな哲学 - 集合体、潜在性、創発』人文書院)における説明の例:

”歴史的な固有性を創出し安定させる過程としての集合体(assemblage)にかんする議論は、20世紀の終わり間際の数十年の時期に、哲学者ジル・ドゥルーズがつくりだしたものである。この理論は、異種混淆的な部分から構成される多種多様な全体へと適用されるべき意図されている。原子や分子から、生物学的な組織、種、システムにまでおよぶ実体は、集合体とみなされることになるだろうし、結果として、歴史的な過程の産物である実態とみなされることになるかもしれない。このことはもちろん、「歴史的なもの」という用語が、ただ人間の歴史だけでなく、宇宙や進化の歴史をも含むものとして使われているということを、意味している。集合体の理論はまた、社会的な実態にも適用されるかもしれないが、社会が自然と文化の境界にまたがるという事実こそが、この理論が実在論的なものであることを証明する。”

DeLanda, Manuel. "Deleuzian Social Ontology and Assemblage Theory." Deleuze and the Social (2006): 250-266. における説明の例:

”What is an assemblage? The key idea in Deleuze’s theory is the exteriority of relations. This implies not only that relations are external to their terms, but also that ‘a relation may change without the terms changing’ (Deleuze and Parnet 2002: 55). In other words, assemblages are not Hegelian totalities in which the parts are mutually constituted and fused into a seamless whole. In an assemblage components have a certain autonomy from the whole they compose, that is, they may be detached from it and plugged into another assemblage. On the other hand, assemblages must be defined not only negatively, by opposing them to organic totalities, but also by their positive characteristics. 

(日本語訳)
アサンブラージュとは何か?ドゥルーズの理論における鍵となる考えは、「関係の外在性」である。これは、関係がその要素に対して外在的であるだけでなく、「関係が変わっても要素自体は変わらない」(Deleuze and Parnet 2002: 55) ことを意味する。言い換えれば、アサンブラージュは、部分が相互に構成され、継ぎ目のない全体として融合するヘーゲル的な全体性ではない。アサンブラージュにおいて、構成要素は全体に対して一定の自律性を持ち、全体から切り離され、別のアサンブラージュに接続される可能性がある。一方で、アサンブラージュは有機的全体性と対立することでのみ定義されるのではなく、その積極的な特徴によっても定義されなければならない。”

DeLanda, Manuel. Assemblage Theory. Edinburgh University Press, 2016. における説明の例:

”What is an assemblage? It is a multiplicity which is made up of many heterogeneous terms and which establishes liaisons, relations between them, across ages, sexes and reigns – different natures. Thus, the assemblage’s only unity is that of a co-functioning: it is a symbiosis, a ‘sympathy’. It is never filiations which are important, but alliances, alloys; these are not successions, lines of descent, but contagions, epidemics, the wind. 

(日本語訳)

アサンブラージュとは何か?それは、多様な異質な要素から成り立つ複数性であり、それらの間に時代や性別、支配するものの違いを超えて、関係や結びつきを確立するものである。したがって、アサンブラージュの唯一の統一性は、共に機能すること、すなわちシンビオシス(共生)であり、「共感」である。重要なのは常に系譜ではなく、同盟や合金であり、それは継承や血統の線ではなく、伝染や流行、風のようなものである。”

 

集合体(=アジャンスマン、アサンブラージュ、アレンジメント)を方向づける二軸の説明の例

Deleuze, Gilles, and Félix Guattari (1980). Mille Plateaux. Paris: Les Editions de Minuit. (宇野邦一他訳『千のプラトー』河出書房新社, 1994年)における説明の例:

”ここから、われわれは〈アレンジメント〉の性格について一般的な結論を引き出すことができる。第一の水平的な軸にしたがえば、一つのアレンジメントは二つの切片を含む。内容の切片と表現の切片である。一方でそれは、身体の行動、受動の機械状アレンジメントであり、たがいに作用しあう身体の混合である。他方ではそれは、言表行為の、つまり行為と言表の集団的アレンジメントであり、身体に向けられる非身体的変形である。しかし、方向づけられた垂直の軸にしたがえば、アレンジメントは一方では、これを静止させる領土的または再領土化された側面をもち、他方ではそれを上回る脱領土化の先端をもっているのだ。”

DeLanda, Manuel (2006), A New Philosophy of Society: Assemblage Theory and Social Complexity, London: Continuum.(篠原雅武(2015)『社会の新たな哲学 - 集合体、潜在性、創発』人文書院)における説明の例:

"集合体の概念は、諸関係の構成要素が外在性だけでなくさらに二つの次元で規定される。そのうちの一つの次元ないし軸は、集合体の構成要素が果たすことになる可変的な役割を規定するが、その軸の一方は純粋に物理的な役割があり、他方の軸には純粋に表現的な役割がある。これらの役割は可変的だが、混合された状態で生じることもあるかもしれない。すなわち、所与の構成要素が、さまざまに異なった能力の組み合わせを行使することで、物質的な役割と表現的な役割の混合を担う、というように。もう一つの次元は、こういった構成要素が関与していく、可変的な過程を規定する。その過程は、集合体の同一性を、内的な同質性の度合いか境界の鋭さの度合いを高めることで、安定させるかもしくは不安定化にする。安定化の過程は領土化の過程と呼ばれ、後者の不安定化は脱領土化の過程と呼ばれる。一つの同じ集合体には、その同一性を安定化させるべく作動する構成要素だけでなく、同一性に変化するよう強制するか、異なった集合体へと変容させる構成要素がある。事実、一つの同じ構成要素は、他方のさまざまな組み合わせを行使することで、両方の過程に関与するだろう。"

DeLanda, Manuel. "Deleuzian Social Ontology and Assemblage Theory." Deleuze and the Social (2006): 250-266. における説明の例:

"Deleuze and Guattari characterise assemblages along two dimensions: on one axis or dimension, they distinguish the role which the different components of an assemblage may play, a role which can be either material or expressive; on the other axis, they distinguishes processes which stabilise the emergent identity of the assemblage (by sharpening its borders, for example, or homogenising its composition) from those which tend to destabilise this identity, hence opening the assemblage to change. These are processes of territorialisation and deterritorialisation, respectively (Deleuze and Guattari 1987: 88).2 In addition, Deleuze and Guattari make an important distinction among the expressive components, between those which are directly expressive and those which rely on a specialised vehicle for expression, such as human language or the genetic code. In the case of social assemblages, there are many aspects of both experience and behaviour which are directly expressive but which in today’s analyses are all lumped together under the label ‘symbolic’. In an assemblage approach it is crucial that those expressive components be given their own separate status and that linguistic components be considered a separate, specialised assemblage.

(日本語訳)

ドゥルーズとガタリは、アサンブラージュを2つの次元で特徴付けている。1つの軸、あるいは次元においては、アサンブラージュの異なる構成要素が果たす役割を区別し、その役割は物質的であるか表現的であるかのいずれかである。もう1つの軸では、アサンブラージュの出現するアイデンティティを安定化させるプロセス(例えば、その境界を明確にしたり、構成を均質化する)と、そのアイデンティティを不安定にし、アサンブラージュを変化に開く傾向のあるプロセスとを区別している。これらはそれぞれ、領土化と脱領土化のプロセスである(Deleuze and Guattari 1987: 88)。さらに、ドゥルーズとガタリは、表現的な構成要素において重要な区別をしており、直接的に表現されるものと、例えば人間の言語や遺伝コードのように、表現のための特化した媒体を必要とするものを分けている。社会的アサンブラージュの場合、経験や行動の多くの側面が直接的に表現されるが、現代の分析ではそれらがすべて「象徴的」というラベルで一括りにされている。アサンブラージュのアプローチでは、これらの表現的構成要素にそれぞれ独自の地位を与えること、そして言語的構成要素を別個の、特化したアサンブラージュとして考えることが重要である。"

DeLanda, Manuel. Assemblage Theory. Edinburgh University Press, 2016. における説明の例:

"The authors refer to the assemblage of bodies as a ‘machinic assemblage’, the term ‘machinic’ meaning the synthesis of heterogeneities as such (ibid., p. 330). In this book the distinction between machinic and collective assemblages is treated as the distinction between material and expressive components. The authors sometimes express themselves that way: ‘We think the material or machinic aspect of an assemblage relates not to the production of goods but rather to a precise state of interminglings of bodies in society.

(日本語訳)

著者たちは、身体のアサンブラージュを「機械的アサンブラージュ」と呼び、「機械的」という言葉は異質なものの統合を意味している(ibid., p. 330)。本書では、機械的アサンブラージュと集団的アサンブラージュの区別は、物質的構成要素と表現的構成要素の区別として扱われている。著者たちは時々このように述べている。「私たちは、アサンブラージュの物質的あるいは機械的側面は、商品生産ではなく、むしろ社会における身体の正確な混合状態に関係していると考える。」"