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「センスメイキング」についてのメモ

最近、ビジネスにおける創造性とは何かを考え直すために、「センスメイキング」について論じた本を読み直している。そんな中で、文化的な探索に基づいて洞察を深掘りしながらアイディアを生み出すことを提案しているクリスチャン・マスビアウの『センスメイキング』は興味深かった。

ただし、この本は、「センスメイキング」について、今日一般的なものとはやや異なる独特の定義に基づいて論を展開しているので、まずはその整理が必要であろう。

 

今日の日本において「センスメイキング」の定義として一般的に知られているのは、例えば以下のようなものであろう。

「センスメイキングは未だ発展中で、その定義自体も多様だ。しかし筆者の理解では、その本質をよくとらえた日本語がある。それは『納得』であり、さらに平たく表現すれば『腹落ち』である。センスメイキング理論は、『腹落ち』の理論なのだ。より厳密には、『組織のメンバーや周囲のステイクホルダーが、事象の意味について納得(腹落ち)し、それを集約させるプロセスを捉える理論と考えていただきたい。』

〔入山(2019) 『世界標準の経営理論』〕

この定義は、「センスメイキング」が事象についての解釈の方向性を組織内で揃える部分に焦点を当てている。その一方で、マスビアウの「センスメイキング」は、解釈を揃える前の、事象から解釈を引き出す部分に焦点を当てている。マスビアウは「センスメイキング」について以下のように説明している。(下線は引用者)

「学術界では、センスメイキングという言葉が時代の変化とともに意味も変容しているが、本書では文化的探索という昔からある行為を指している。つまり、今や忘れ去られかねない状況にある価値観に根ざしたプロセスを指すものとして使っている。

「文化を調べ、全方位的に理解するには、我々の人間性をフルに活用しなければならない。自分自身の知性、精神、感覚を駆使して作業に当たらなければならない。特に重要なのは、他の文化について何か意味があることを語る場合、自身の文化の土台となっている先入観や前提をほんの少し捨て去る必要がある。その分、まったくもって新しい何かが取り込まれる。洞察力も得られる。このような洞察力を育む行為を筆者は『センスメイキング』と呼んでいる。」

「センスメイキングは、人文科学に根ざした実践的な知の技法である。アルゴリズム思考の正反対の概念と捉えてもいいだろう。センスメイキングが完全に具体性を伴っているのに対して、アルゴリズム思考は、固有性を削ぎ落とされた情報が集まった無機質な空間に存在する。アルゴリズム思考は『量』をこなす考え方で、一秒間に何兆テラバイトもの膨大なデータを処理できるが、深掘りして『奥行き』を追求できるのはセンスメイキングの力なのだ。」

「現実、すなわち意味があると認識できるものは、文脈(前後関係・状況)や歴史と切っても切れない。基本的には、この文脈を超えて物事を考えることはできない。人間は、自ら身を置く社会によって定義されるとハイデガーは主張する。言い換えれば、フォードのマーク・フィールズのような人物が中国やインド、ブラジルといった市場でクルマを売る極意を会得しようと思えば、新しい消費者の社会的な文脈について微妙な違いにまで踏み込んだ理解が求められるわけだ。そしてこうした理解を最短距離で最も効果的に達成する手段こそが、センスメイキングなのである。」

「…筆者は、センスメイキングのデータを『厚いデータ』と呼ぶようにしている。文化について有意義なことを表しているからだ。厚いデータは、単なる事実の羅列ではなく、こうした事実の『文脈』を捉えている。例えば米国の家庭の86%は週に5.7リットル以上の牛乳を消費しているそうだが、牛乳を飲む『理由』は何か。そして牛乳とはどういうものなのか。『40グラムのリンゴと1グラムの蜂蜜』というのは薄いデータだ。だが、『ユダヤ教の新年祭(ローシュ・ハシャナ)にりんごに蜂蜜をつけて食する習慣がある』となったとたん、これは厚いデータに変わる。」

「…こうした重層的な構造をもつ人間性を単純化して捉えようとせずに、北極星を頼りに航海をするように行く先を見極めるセンスメイキングが大事なのである。我々は目の前の現実の世界を生きていく術を身につけながら、自分の立ち位置や向かっている方向について正確に捉える力を養っていくものだ。アルゴリズムが思考を客観性、つまりはまったく偏りのない見方という幻想をもたらすものだとすれば、センスメイキングは自分の立ち位置をはっきりさせる方法でもある。特に重要なのは、センスメイキングで自分がどこに向かっているのかを絶えず意識できるようになることだ。」

上記に基づくと、マスビアウの「センスメイキング」の定義は、

“行動の痕跡などの定量データ(「薄いデータ」)やそれを活用した単純な解釈のみに頼らず、幅広い人文科学を活用しながら文化的な探索を行い、行動を取り巻く文化的な文脈を示すデータ(「厚いデータ」)も集め、それらのデータに基づいて洞察を深掘りすることにより、事象に対する解釈の方向性を見極めていくプロセス”

と整理できるのではないだろうか。そして、マスビアウの「センスメイキング」においてしばしば「仮想敵」として登場するのが、「薄いデータ」を使ったアルゴリズム思考を重視する「シリコンバレー」的な発想である。

「…本物のシリコンバレーで、あるいは広い意味でのシリコンバレー的文化から生まれているイノベーションにとてつもないメリットがあることは言うまでもない。シリコンバレー文化がグローバル経済の立役者になるきっかけとなった最先端技術や起業家精神を、完全に排除せよなどと主張しているわけではない。
問題は、シリコンバレーが我々の知的生活をじわりじわりと犠牲にしている点だ。歴史学や政治学、哲学、芸術学などの人文科学、言い換えれば世界の豊かな現実を生き生きと描写してきた伝統が、シリコンバレーで流通する想定一つひとつに踏みにじられているのである。

技術が救世主だとか、過去に学ぶものがないとか、数字がすべてを物語るといったことを信じていると、やがて危険な誘惑の言葉にふらふらと吸い寄せられることになる。真実の断層をコツコツとつなぎ合わせる努力をせずに、特効薬を見つけようとしているようなものだ。

こうしたシリコンバレー流の誤った想定に対して、筆者が提示する是正策がセンスメイキングである。途方もないくらいのコンピュータ処理能力を自由に使える時代になったとはいえ、腰を据えて問題に向き合い、苦悩し、先人らがコツコツと丹念に取り組んできた観察の成果に助けを借りながら、答えを見つけだそうと努力することを、我々人間は避けて通れない。」

ただし、「シリコンバレー」側も、マスビアウが『センスメイキング』を書いた2018年頃からさらに進化し、今日では「薄いデータ」から「厚いデータ」にも対応を強化してきている。例えば「大規模言語モデル」を活用したチャットサービスは、ある事象に関連する文脈を示す可能性のあるデータを効率よく集めるのを支援するようになっているのを今日私たちは体感している。

話が逸れたが、マスビアウの『センスメイキング』についてさらに理解を深めるために、この本の中から「センスメイキング」を「人間が新たなスキルを身につける五つの段階」「四つのタイプの知識」「アブダクション」と照らし合わせながらさらに整理する。

 

「人間が新たなスキルを身につける五つの段階」

マスビアウは『センスメイキング』の中で、カリフォルニア大学バークレー校の哲学教授であるヒューバート・ドレイファスが提唱した、人間が新たなスキルを身につける際の五つの段階について、自らの解釈と事例を加えながら紹介している。

第一段階「初心者レベル」

初心者レベルの人は、ある状況の中で「文脈に依存しない」要素に基づいて行動を決定するルールを身につけ、そのルールに基づいて、こうした要素を操作する

  • 例: クルマの運転初心者は、「ある速度になったら変速する」というルールに基づいて、上り坂かどうかも、エンジンの回転数も気にすることなく、クルマが一定の速度に達すると変速する
  • 例: ビジネススクールに入学したての学生は、決まって市場シェアと標本調査結果と生産コストをコスト利益モデルに突っ込んで市場分析をしたがる
  • 例: ワインの醸造年度や品種、産地といった文脈と切り離された要素を見て、すでに習ったルールに照らしながら、どのワインが「上物」かを見定めようとする(が限界あり)

第二段階「新人レベル」

新人レベルの人は、これまでの経験に基づいて「その場の状況に応じた」要素を認識できるようになる

  • 例: 犬の飼い主が自分の愛犬の吠え方を区別できる
  • 例: チェスの選手は何手も先の形勢を読むことができる
  • 例:その年度と産地のワインを実際に味わってきて、その経験を応用しながら、どのワインが「上物」かを見定める

第三段階「一人前レベル」

一人前レベルの人は、膨大な「文脈に依存しない」要素と、膨大な「その場の状況に応じた」要素の中から、目の前の状況に最もふさわしいものを優先して検討できるよう、階層構造の意思決定手順を持つようになる

  • 例: 営業部門の責任者は、まず営業目標がすべて達成されているかどうかを判断し、もし達成できていなければ、各チームに話を聞いて、数字が伸びていない原因を探索し、全部で四つあるチームのうち三つのチームが「取扱品目が多すぎる」と言っているならば、上長に掛け合って商品リストの精査を提案する

第四段階「中堅レベル」

中堅レベルの人は、習ったルールを杓子定規に当てはめるだけでなく、過去の経験の蓄積から浮かび上がるパターンを認識でき流ようになり、目の前にある個々の要素の間の関係性を理解するだけでなく、目の前の状況を全体として捉えるようになる

  • 例: 作家ウィリアム・ギブスンの小説『Pattern Recognition(パターン・レコグニション)の主人公ケイス・ポーラインドが、独創性のない企業ロゴを目にすると、間髪をいれずに反射的に体が拒絶反応を示す

第五段階「達人レベル」

達人レベルの人は、何をするにしてもその関わり具合は複雑を極めるため、頭で考える余地がほとんどなくなる。我々が自分の身体を意識せずに生活しているのと同じで、達人としてのスキルが完全に自分のものになっていると、そのスキルさえも意識しなくなる

  • 例: 作家コリン・ホワイトヘッドが、ある日、「19世紀前半に奴隷たちの逃亡を手助けするために実在した秘密組織の名称である『地下鉄道』が、もしも本物の地下鉄道だったら」とつぶやいたときに反射的に強烈な衝動を覚え、この着想を起点に、直観を駆使しながら、幼いころから馴染んできた小説やドラマの印象的な場面を織り込みながら小説『The Underground Railroad(地下鉄道)』の物語を組み立てた

初期の段階は教科書通りの基本規則や合理的な判断の応用ばかりだが、段階が進むにつれて、無意識に発揮される研ぎ澄まされた直観が中心になってくる。そして、直観を働かせると、予期せぬパターン同士の類似点を見つけ出し、やがてはかつて聖域とされていたルールであっても、例外なく覆す新たなルールをつくり出せるようになる。あるいは、行動のあるべき流れを決めているのが本人ではなく、状況全体から直接浮かび上がってきて、頭で考えるのではなく身体の記憶で動くという経験として現れる。

マスビアウによると、この無意識に発揮される研ぎ澄まされた直観によって、あるいは身体の記憶で動くと言う経験として、自らが方向づけられる力こそ「センスメイキング」である。

 

「四つのタイプの知識」

マスビアウは『センスメイキング』の中で、「自分が何かを知っている」とは何かについて過去の哲学者たちが考えてきたことを四つのタイプに整理している。

1. 客観的知識

自然科学の基礎。同じ結果になることを何度でも検証できる。主張内容に再現性があり、普遍的に有効であり、実際の観察結果に一致している

  • 例: 二+二が四であることの知識
  • 例: このレンガの重さが三ポンドであることの知識
  • 例: 水が水素原子二個と酸素原子一個からできていることの知識

2. 主観的知識

個人的な見解や感覚の世界。認知心理学の研究対象となる内面生活の現れ。自らの感覚の領域に属するものを経験した場合、その瞬間に正しい知識として受け止められる

  • 例: 自分の首が痛いことについての知識
  • 例: 自分のお腹が空いたことについての知識

3. 共有知識

公共の文化的な知識。共有された人間の経験の領域。そこに漂うムードや気分のような、客観的でも主観的でもなく、全員の感じ方に影響を与える

  • 例: ジョージ・ソロスらがポンド切り下げを予想するのに使った、ドイツのインフレの経験、戦後の通貨政策にその経験がいかに表れていたか、ロンドンの街並みの雰囲気、利上げで英国が困窮している様子といった知識

4. 五感で得られる知識

身体から得られる知識。意識されず感覚や知覚として感じ取られる

  • 例: イラクでの活動経験が豊富な兵士が、偽装爆弾に近づいたときに自分の体の中に生まれる何らかの「感覚」
  • 例: ベテランの消防士が火の動きを予期する「第六感」
  • 例: ジョージ・ソロスが市場データを一種の意識の流れとして体感し、市場データが自身の知覚に複雑に絡みついていると感じ、自分の身体が市場システムの”一部”になっている状態で得られるもの

この中で、五感で得られる知識は、マスビアウも『センスメイキング』の中で少し言及しているが、行動経済学者のダニエル・カーネマンの「システム1」に通じるものがありそうだが、詳しくは、私が『楽しいことを考えている方が良いアイデアが出る』に書いた「連想記憶マシン」を参照いただきくとよいだろう。

マスビアウによると、ジョージ・ソロスらが絶妙な判断を何度も下すことができたのは、これら四つのタイプの知識をどれも重視し、見事に融合させたからであり、このような「四つのタイプの知識の見事な融合」こそ「センスメイキング」である。

 

「演繹法・帰納法・アブダクション」

マスビアウは『センスメイキング』の中で米国の哲学者・論理学者のチャールズ・サンダーズ・パースが問題解決に使用する推論形式として定義した「演繹法」「帰納法」「アブダクション」の三つを取り上げている。

1. 演繹法

一般的な法則や理論(仮説)から入って、個々の具体的な事象に応用する。トップダウンの推論方法とも呼ばれる。範囲が限定的な問題に威力を発揮するが、新しい情報を組み込むことができない

  • 例: 「すべての女性は死を免れない」「サリーは女性である」という前提から、「サリーは死を免れない」と推論する

2. 帰納法

具体的な観察から入り、理論へと研ぎ澄ませていく。既知の部分と未知の部分がある特定の問題にはそれなりに有効だが、異なる文化や行動様式においては文脈を捉えることができないので妥当性が低い

  • 例: 「サリーは医師である」「サリーは学校を卒業したばかりである」という観察から、「サリーは医学部出身である」と推論する

3. アブダクション

既知の説明や理論的な説明がつかない現象を観察した上で、知識に裏打ちされた推測をする。新しいアイディアを生み出すことができる

  • 例: 「家の窓が割れている」「宝石箱がなくなっている」「家具がひっくり返っている」「服があちこちに散らかっている」という一連の現象の観察から「泥棒に入られた」という、不確かだが最も合理的な結論へ飛躍する

パースがアブダクションの前提として、仮説が「真である」かどうかではなく、「真に近い」ものであるかどうかを問うことを主張し、「真に近い」ものは、常に改善の余地があり、新たな真実が見えてくる可能性に対して開かれていることを重視した。この「真に近い」状態は、不確かな状態なので、私たちにとっては不安だったり不満だったりし、そこから逃れて確信が持てる状態に移りたいと考えるものなのだが、マスビアウは、この不確かな状態こそ、新たな理解への道を開くものであり、創造性の真の姿であると捉える。

 

「人間が新たなスキルを身につける五つの段階」における無意識に発揮される研ぎ澄まされた直観によって自らが方向づけられる力や、「四つのタイプの知識」における客観的知識、主観的知識、共有知識、五感で得られる知識の四つの見事な融合、あるいは「アブダクション」における不確かな状態は、文化的な探索や、「厚いデータ」に基づく洞察の深掘りにより事象に対する解釈の方向性を見極めていくプロセスにおいて、私たちを、反論の隙を見せない数字や知識、教科書的なルールから「自由」にする。

この「自由」は、千利休の茶道の修行において、師匠から教えられたことを守り、会得する「守」から、教えられたところからさらに展開して新しく工夫していく「破」を経て、「守」からも「破」からも自由自在になった「離」に辿り着いた境地も連想させる。〔笠井 (1991)『千利休の修行論』

マスビアウの『センスメイキング』は、私たちが探索し、洞察を深めながら、自ら方向を見出す際に、私たち自身を縛るものから「自由」になるための人文科学(まさに「リベラル・アーツ」!)の可能性を具体的に示した本である。

(資料)

入山章栄 (2019) 『世界標準の経営理論』 ダイヤモンド社

及川直彦 (2002) 『楽しいことを考えている方が良いアイデアが出る』 https://oikawa.hatenadiary.com/?page=1664458282

笠井哲 (1991)『千利休の修行論』 https://core.ac.uk/download/pdf/56630611.pdf

クリスチャン・マスビアウ (2018) 『センスメイキング』プレジデント社

「β版による学習」と「実験に基づく意思決定」と「リーン・スタートアップ」

はじめに

 エリック・リースの「リーン・スタートアップ」を読んだ (Ries 2011)。

 この本が2012年に日本で刊行されたとき、私の周囲でもこの本は話題になっていたのだが、当時私は、「リーン・スタートアップ」を、昔から知られている概念を別のキーワードで語り直す『車輪の再発明』系の概念に感じたこともあり、それほど注目していなかった。

 その後、2010年代後半頃に、「MVP(Minimal Viable Product: 実用最小限の製品)」や「Pivot」という「リーン・スタートアップ」に登場する概念を使うスタートアップ企業の経営者や投資家、大企業の中の新規事業開発の責任者などと接するようになった。彼ら・彼女らと会話する中で、「リーン・スタートアップ」は、私がそれまで取り組んできた、後述する「β版による学習」や「実験に基づく意思決定」の概念と近いと感じるとともに、「リーン・スタートアップ」の概念やフレームワークが、新規事業開発に取り組む人々にとって共通言語的な存在になっていることに気づいた。ただし、断片的に目にする概念やフレームワークについて既視感があったこともあり、これまでは読書の優先順位が高くなってこなかった。

 ところが、読んでみたらところ、概念についてはやはり既視感はあったが、説明のわかりやすさや、このアプローチを導入する際の組織的な抵抗への目配りとその解決方法の提案などフレームワークのきめ細かさにおいて優れた本であると感じた。

 というわけで、「β版による学習」と「実験に基づく意思決定」と「リーン・スタートアップ」の三つの近接する概念を橋渡しする整理をしてみることにする。

「β版による学習」

 「β版による学習」は、私が創業し当時所属していた電通コンサルティングが新規事業の開発を支援する際に重視していたアプローチであり、2011年4月に開催したセミナー「『業態変革のイノベーション』〜マーケティング・ドリブン・ビジネス・デザイン〜」や、その後DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー主催のセミナー、日本マーケティング協会主催のセミナーなどで提唱してきた「マーケティング・ドリブン・ビジネス・デザイン」を構成する三つのステップのうちの一つを構成するものだった。このアプローチを紹介した「しくみづくりイノベーション」の中には次のように書かれている。

“ 顧客の理解が正しかったのか、それをもとにして開発された製品やサービスのあり方は正しかったのか、あるいはその販売方法、そもそものビジネスモデルが適切なのかどうか。それらへの解答は、製品やサービスが市場に投入され、ある程度の期間が過ぎるまではわからない。だからといって、顧客の需要など考えずに、供給側の論理で製品やサービスを提供し、気に入ってもらえればビジネスが成立するといったギャンブルをするのは効率がいいとはいえない。
どうしたらよいのだろうか。前章でみたように、製品やサービスの完成を待たず、顧客に開発や製造のプロセスに参加してもらい、共学習・共進化することで、よりよい製品へと双方の期待と現実を収束させるためのエコシステムを構築すべき、というのがわたしたちの用意した解答だ。その発想の原点にあるのは、「ベータ版」という実践手法である。”

(電通コンサルティング 2012)

 「β版による学習」のヒントの一つは、私が2004年から2006年に早稲田大学ビジネススクールで学んでいたときに出会った、MITのエリック・フォン・ヒッペル教授のイノベーションに関する一連の理論だった。例えば「Sticky Information and the Locus of Problem Solving: Implications for Innovation」という論文 (von Hippel 1994)においては、イノベーションの鍵となる情報がユーザーの利用場面に「粘着」しているため、プロトタイプに基づくユーザーと反復的な学習プロセスを重ねることの有効性を提案している。

 このアプローチは、2000年代前半頃からソフトウェアやウェブサイトの開発において注目されるようになり、当時台頭していたGoogleがこのアプローチをGoogle Mapの開発で活用したことから、新規事業開発に携わる人々の多くに注目されるようになっていた。当時新規事業開発の支援をしていた電通コンサルティングでも、シナリオを構築した「後」の学習プロセスを重ねる時間と資源をいかに確保できるかが、「筋の良い仮説」を「成功する事業」に転換するための鍵と考えていた。

「実験に基づく意思決定」

 この本を出版した一年後、私は、ビジネス実験に基づく意思決定を支援する事業を展開するAPT(Applied Predictive Technologies, 現在はMastercardに買収され、Mastercard Data & Servicesとして事業を継続)に移り、日本事業の立ち上げに携わったのだが、この事業の創業者の一人であるジム・マンジはその著書「Uncontrolled(日本語未訳)」の中で、かつてコンサルタントだったときに「実験」の力に気づいたきっかけについて述べている。

“ The company believed consumers would positively receive this program, but the open question was whether it would lead to enough new sales to justify the substantial extra costs it would require. I developed a complicated analytical process to predict the size of the sales gain, including qualitative and quantitative consumer research, competitive benchmarking, and internal capability modeling. With great pride I described this plan to a partner in our consulting firm, who responded by saying, “Okay . . . but why wouldn’t you just do it to a few stores and see how it works?
This seemed so simple that I thought it couldn’t be right. But as I began a series of objections to his question, I kept stopping myself mid-sentence. I realized that each of my potential responses was incorrect: an experiment really would provide the most definitive available answer to the question.

 ( その会社はこのプログラムが消費者に受け入れられると信じていたが、問いは、このプログラムが、必要とされる多額の追加コストを正当化できるだけの追加的な売上につながるかどうかであった。そこで私は、消費者の質的・量的調査、競合他社のベンチマーキング、社内のケイパビリティのモデリングなど、複雑な分析プロセスを駆使して、得られる売上の大きさを予測した。その予測を当時働いていたコンサルティング会社のパートナーに誇らしく説明したところ、彼は意外な返事をした。「なるほど。ところで、なぜ数店舗でそのプログラムを展開してみて、効果があるかどうかを見ないのですか?」
 あまりに簡単なことなので、そんなはずはないと思った。しかし、彼の質問に対する反論を始めたとき、私は何度も途中で自分を止めざるを得なかった。自分が答えようとしたことが間違っていることに気づいた。確かに実験すれば、問いに対して最も明確な答えが得られる。)”

(Manzi 2012)

 そういえば、ここでジム・マンジが語る「そんなはずはないと思った」という戸惑いは、その後APTの事業を展開する中で、私自身、しばしば目撃することとなった。

 回帰モデルに基づく予測が交絡因子を排除できておらず、それゆえ予測と現実がしばしば乖離し、その補正のために多くの分析者の工数が泥沼のような精度を高める取り組みに投入されることは、データに習熟している経営者や分析者の方々ならばよく知っているはずなのだが、そんな方々でも、実験に対しては、「自らの知性を発揮して問題を解くことを避けて、巻末の答えを見ようとするかのよう」という第一印象を持つらしい。目的合理的に考えると、実験によって得られる意思決定の精度は高く、無用な分析者の工数を抑制でき、そして実験はやってみると意外とコストがかからないのだが、それに気づくまでの時間差は、もしかしたら私たちの「問題解決」というものに対して持つ先入観のせいなのかもしれない。

「響きのよいシナリオが暴走する」問題

 2000年代中盤から2010年代後半まで私が「β版による学習」と「実験に基づく意思決定」に情熱を持って取り組んできた理由の一つは、私自身がプランナーやコンサルタントとして関わる中で、経営の意思決定においてしばしば目にしてきた、「響きのよいシナリオが暴走する」問題を解決したいと思ったからだ。
 「賢い人たち」が集まって議論を重ねると、まさに自社の意義や資源に適合し、世の中の充足のニーズを解決する響きの良いシナリオが出来上がっていくのだが、そのシナリオの響きをさらによくするよう磨き上げていくうちに、そのシナリオが、顧客やその他のステイクホルダーがついてこないフィクションになっていた、ということがしばしば発生する。そして、このような状況は、「賢い人たち」が意味合いのはっきりしないデータを創造的に解釈し、その裏側で自らのポジションに少しずつ有利に持っていけるように、議論を展開しようとする中でしばしば発生する。

 本来ならば、新たに取り組もうとすることの成功を左右するクリティカルな論点が何かを特定し、それらの論点に適合するデータを取得する努力をし、そうやって取得されたデータに基づいて議論を展開すべきところではないかと思われる場面でも、判断を保留してデータを取得するよりも、その場で「限定された合理性」を許容しながら創造的な解釈を展開し、議論の参加者の間で時間を重ねることで納得感(あるいは妥協)を作り、合意が形成されていく。自らの知性を発揮して問題を解くことを避けて、巻末の答えを見ようとする、あるいは、その場で勇敢に意思決定をするのを回避するのが卑怯だと言わんばかりだ。

 このようにして合意を形成されたシナリオの中には、複数の変数の間で仮定と仮定を重ねた「風が吹けば桶屋が儲かる」型のモデルが、それぞれの変数の間のパス係数が1に近いのか0に近いのかによってその結果が大きく変わるのにもかかわらず、そのパスの矢印が引かれているだけで「因果関係がある」ものとなっているものをしばしば目にする。

 この「響きのよいシナリオが暴走する」問題は、「リーン・スタートアップ」で「宇宙船の発射に近い事業計画」として語られている。

“ スタートアップの場合、自動車の運転よりも宇宙船の発射に近い事業計画が多すぎると思う。実行すべき手順とその結果、期待される成果が事細かに記述されているし、ロケットの発射計画と同じように、ごくわずかでも仮説がまちがっていると悲惨な結果がもたらされる計画になっている。
 たとえばあるスタートアップは、新製品に何百万人という規模で顧客がつくと予想していた。立ち上げは世の中の注目を集め、計画どおりの滑り出しだった。しかし、顧客は予想ほど集まらず、その時点でインフラストラクチャーと人員、サポートについて想定顧客に対応できる規模を用意していた会社は状況の変化に対応できずに終わってしまった。計画を忠実かつ的確に実行することに成功した結果、「失敗を達成」してしまったのだ──ふたを開けてみれば計画に大きな不備があったために。”

(Ries 2011)


「実験による意思決定」による「β版による学習」の推進≒「リーン・スタートアップ」

 私自身がこれまで取り組んできた概念を使って「リーン・スタートアップ」を整理するのはいささか我田引水的にはなるが、「リーン・スタートアップ」を、「響きのよいシナリオが暴走する」問題を解決するために提案された、「β版による学習」を「実験による意思決定」により推進しようという概念とそれを支える一連のフレームワークであると整理しても、それほど本質を外していないのではないだろうか。

 例えば「リーン・スタートアップ」の以下の記述は、「β版による学習」の「実験による意思決定」による推進を提案していると言えよう。

“ これに対して、スタートアップをうまく操縦できる方法を教えるのが、リーン・スタートアップ方式である。リーン・スタートアップでは、さまざまな仮説に基づいて複雑な計画を立てるのではなく、構築─計測─学習(Build Measure Learn)というフィードバックループをハンドルとして継続的に調整を行う。ピボット(pivot)をいつすべきなのか、そろそろすべきなのか、あるいはまた、いまのまま方向性を維持して辛抱(persevere)すべきなのかは、この操縦プロセスを通じて学ぶことができる。順調にエンジンの回転が上がったあと、スケールアップして事業を急速に成長させるわけだ。その方法もリーン・スタートアップ方式には用意されている。”

(Ries 2011)

“ リーン・スタートアップでは、スタートアップが行うことを「戦略を検証する実験」としてとらえなおす。戦略のどの部分が優れていてどの部分が狂っているのかを検証する実験だ。実験は科学的手法にのっとって行う。まず、何が起きるのかを予想する仮説を組みたてる。次に、予測と実測とを比較する。科学的実験が理論に基づくように、スタートアップの実験はビジョンに基づいて進める。ビジョンを中心に持続可能な事業を構築する方法を明らかにすることが実験の目標である。”

(Ries 2011)

 「β版による学習」の「実験による意思決定」を、それを推進するための資源投入にフォーカスし、そのために、「響きのよいシナリオ」を磨きこむ時間と資源を抑制し、そのシナリオを体現するプロダクトの機能を揃えたり、それぞれの機能の品質を追求する時間と資源を削ぎ落とした「MVP(Minimal Viable Product: 実用最小限の製品)」に基づく実験を通じていかに顧客との反復的な学習プロセスの回数の時間をより多く確保するかーこのシンプルだが見逃されがちなアプローチを、時間と資源を目的合理的でないところにおいて削ぎ落とすところのキーワードにトヨタ生産方式の「リーン」の概念を使って印象的に説明しているところがうまい。
 概念の提唱においてはオリジナリティも重要であるが、それとともに、世の中にどこまで普及させることができたかも重要である。その意味では、スタンフォード大学のステファン・ブランク准教授が、

“ 考案からわずか数年であるにもかかわらず、この手法の主要概念である「実用最小限の製品」や「ピボット」は瞬く間に起業の世界に根を下ろした。これらを取り入れるために、ビジネス・スクールもすでにカリキュラムの変更に着手した。“
(Blank 2013)

とコメントしている状況を出版後数年で実現し、今日の日本でも、私自身スタートアップ企業やその投資家と協業する中で、「MVPに基づいて何を学習したか? その学習の解像度を高めるために次に何をすべきか?」といった議論を日常的に行なっている状況を鑑みると、この概念は、実務と学術のコミュニティにおいても、鍵となる概念であるという合意形成が進んでいるものと言っても良いだろう。

 ただし、学術研究においては、まだレビュー的な研究が多く、実証的な研究については数が少なく、これからの取り組みが期待される領域でもあります。日本でもこの領域の研究が進むと良いですね。

 

  • Blank, Steven G. (2013) “Why the Lean Start-Up Changes Everything,” Harvard Business Review , May 2013, Harvard Business Publishing. (有 賀 裕子訳 (2013) 「リーン・スタートアップ:大企業での活かし方 GE も活用する事業開発の新たな手法」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』38(8), 40-51, ダイヤモンド社)
  • Manzi, J. (2012). Uncontrolled: The surprising payoff of trial-and-error for business, politics, and society. Basic Books.
  • Ries, Eric. (2011) The Lean Startup: How Today’s Entrepreneurs Use Continuous Innovation to Create Radically Successful Businesses, Currency. (井口耕二訳 (2012) 『リーン・スタートアップ』 日経 BP)
  • von Hippel, Eric (1994), "Sticky Information and the Locus of Problem Solving: Implications for Innovation,” Management Science, 40(4), 429-439.
  • 電通コンサルティング (2012) 『しくみづくりインベーション』 ダイヤモンド社

「ネットワーク効果」についてのメモ

数多くのMEGA TECH企業を育ててきたことで知られるシリコンバレーのベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のゼネラルパートナーのAndrew Chenが書いた「ネットワークエフェクト」が、今日的なTECH企業の思考の本質を捉えていた本でした。

どの部分も面白いのですが、その中から、世の中でいわゆる「ネットワーク効果」と呼ばれているものを3つの効果に分類し、それらをどのように加速させるかを提示している部分をメモ。

 

3つの効果:

  • ユーザー獲得効果: ネットワークが広がるほど既存ユーザーからの口コミや紹介による新規ユーザーの獲得が促進される効果
  • エンゲージメント効果:ネットワークが密になるほどユーザーの利用頻度が高まり、製品から離れにくくなる効果
  • 経済効果: ネットワークの拡大とともにコスト構造と利益が改善し、収益を上げやすくなる効果

 

加速させるアプローチ:

  • ユーザー獲得効果を加速させるアプローチ
    • 前提となるモデル: ネットワークが広がる→サービスを知る→登録・利用する→知覚品質が高まる→友人や同僚に紹介しようと動機づけられる→紹介を実行する
    • 加速させるアプローチ
      • ユーザーが製品を利用・推奨している場面を見極め、プロセス(バイラルループ)の各段階の改善機会を探索する
      • 見極められた利用・推奨場面や、探索された改善機会に適合する施策を立案し、A/Bテストなど活用しながら検証し、効果が高いものを特定し本格展開する
      • 効果の変化をモニタリングしながら、新たな施策を追加し、施策のポートフォリオをアップデートしていく
      • PayPalが、eBay上でオークション取引で「PayPal払いを受け付けます」と書かれた商品ページが数多くあることに気づき、出品者がeBayの認証情報を入力すると全出品ページに自動で「PayPal払いOK」のバッジを掲載する機能を追加する
      • PayPalにおいて、ユーザーが送金したい相手の友人を招待する行動をとっていたが、それを加速するために、友人を招待したユーザーと招待された人に同時に10ドルをアカウントに付与するキャンペーンを展開する

 

  • エンゲージメント効果を加速させるアプローチ
    • 前提となるモデル: ネットワークが広がる→用途が生まれる→知覚品質が高まる→ユーザーの利用頻度が高まる→用途が増える→知覚品質がさらに高まる→ユーザーの利用頻度がさらに高まる
    • 加速させるアプローチ
      • ユーザーを分類し、それぞれのグループのユーザーごとの属性やモチベーション、利用目的を把握し、それらに適合した機能や情報を見極め、プロセス(エンゲージメントループ)の各段階の改善機会を探索する
      • 見極められた機能や情報、探索された改善機会に適合する施策を立案し、A/Bテストなど活用しながら検証し、効果が高いものを特定し本格展開する
      • 効果の変化をモニタリングしながら、新たな施策を追加し、施策のポートフォリオをアップデートしていく
      • Dropboxにおいて、複数デバイスで利用していて、仕事で他のユーザーとフォルダを共有し共同作業をしているユーザーが価値の高いグループであることが特定されている。この洞察に基づいて、開発のロードマップにおいてファイルの同期や共有作業の機能の改善にフォーカスし、複数デバイス間で同期を簡単に設定する方法を教えるコンテンツを見せる施策や、適切に設定したユーザーにストレージ容量を無料追加するインセンティブを提供する施策を検証し、効果が高いものを本格展開する
      • Slackにおいて、投稿するとポジティブな反応が見え、それが心理的な報酬となってまた投稿をしたくなるというプロセスがあるならば、ポジティブな反応を簡単に送り合う機能(例: 絵文字の「いいね!」)の強化にフォーカスする 

 

  •  経済効果を加速させるアプローチ
    • 前提となるモデル: ネットワークが広がる→知覚価値が高まる→許容価格が高まる(例: 無料→有料)→課金する→ハードサイドのユーザー(多くの労力を割いてネットワークに貢献してくれるが、集め、定着させるのが難しいユーザー)に分配する収益を確保する→ハードサイドのユーザーの参加を動機づける→ハードサイドのユーザーの参加を高める→さらに知覚価値が高まる
    • 加速させるアプローチ
      • ユーザー獲得効果とエンゲージメント効果を加速する(上記)を前提
      • 許容価格の高い状態になっているユーザーを見極め、適合する料金体系を設計する
      • ハードサイドのユーザーに参加を動機づける施策を立案する
      • Slackにおいて、社内のユーザーが増えた企業に対して、部門を横断したメッセージの検索機能や質の高い音声通話機能を実装した有料プランへの切り替えを提案する
      • Uberにおいて、乗客の依頼に応えるために十分なドライバーを確保するために、ドライバーの報酬保証制度(Uberで運転すると4週間は時給30ドル分の報酬を保証するキャンペーン)、競合他社よりも高い報酬を保証する施策、「X回乗客を載せたら報酬にYドルを追加」などインセンティブ施策を強化する


構成概念の一部(例: 「経済効果」)が、複数の概念が混ざっていてややキレがやや良くないところなど、経営学の文献として読むのには若干の課題はありますが、それでも、この本が、今日的なTECH企業の思考の本質を捉えた良書であることに変わりはありません。

デジタル情報技術が価値創造プロセスに与えた影響の整理 (2023.2)

一般的に「デジタル」と呼ばれる情報技術が、企業が価値を創造するプロセスにおいて、1985年から今日あたりまでの間にどのような影響を与え、何が起こったかについて、ざっくりと整理をしてみました。

 

  • 【前提】価値を創造するプロセスが「物理的な部分」から「情報処理的な部分」に移行している (Porter & Millar 1985)
    • 産業革命は、価値を創造するプロセスにおける「物理的な部分」(例: 製造における加工・組み立て・保管・出荷、物流におけるピッキング・仕分け・梱包・配送)において、人間の労働を機械に代替させることによりコストを低下させることができた。
      このプロセスのコストの低下により、「Price=顧客に提供する製品・サービスの価格)あたりのValue=知覚される価値」(以後「Value/Price」)のうち、Priceの部分を下げることができた。
      すなわち、顧客に提供する製品・サービスのValue/Priceを高めることができた
    • 情報革命は、価値を創造するプロセスにおける「情報処理的な部分」(例: 製造における部品注文・生産計画・欠陥の情報、物流における配送先・個数・納期・運賃・配送計画)において、情報技術により記録・保管されたデータの参照や繰り返し処理の自動化、分析に基づく最適化によりコストを低下させ、従来よりも高度なプロセス(例: 高い粒度の対応、相互連携的な対応)ができるようになるだろう。
      このプロセスのコストの低下と高度化により、顧客に提供する製品・サービスのValue/Priceのうち、Priceの部分を下げ、Valueの部分を上げることができるだろう。
      すなわち、顧客に提供する製品・サービスの価格を下げ、カスタマイズやサービス間の連携などにより価値を高めることにより、Value/Priceを高めることができるだろう。

 

  • 【問い】価値を創造するプロセスの中の「情報処理的な部分」において、Porter & Millar (1985)以後の情報技術の進化はどのような影響を与え、何が起こったか

 

  • 【視点1】3つのアプローチから情報技術の能力が増加している
    • 情報の処理能力(プロセッサ速度)は18ヶ月ごとに(Moore’s Law)、情報の蓄積能力(ストレージ)は12ヶ月ごとに(Kryder’s Law)、情報の流通能力(帯域)は9ヶ月(Amazon)もしくは21ヶ月ごとに(Nielson’s Law) 、倍のペースで成長している

 

  • 【視点2】Lanning & Michaels (1988)は、価値を創造するプロセスを、「価値の選択」「価値の提供」「価値の伝達」の三つで構成される「バリュー・デリバリー・システム」で捉えることを提案している
    • 価値の選択
      • バリュー・ドライバーの理解
      • ターゲットの選択
      • ベネフィットと価格の定義
    • 価値の提供
      • 商品のデザイン・プロセスの設計
      • 調達・製造
      • 流 通
      • サービス
      • 価 格
    • 価値の伝達
      • 販売のメッセージ
      • 広 告
      • 販売促進
      • 広 報

(Lanning & Michaels 1988)
  • 【視点1と視点2の照応-価値の伝達】価値を創造するプロセスの中で、特に「価値の伝達」に関連する部分においては、以下のようなことが起こったのではないか。
    • 【モデル1】ウェブサイトによる情報提供・ウェブブラウザによる情報閲覧が組み合わさった情報環境(以後「ウェブベースの情報環境」)が、企業から顧客に情報を提供するコストを低下させた
    • 【モデル2】ウェブベースの情報環境を利用する企業が増えると顧客が増える⇄顧客が増えると企業が増えるネットワーク効果が発生した
    • 【モデル3-a】ウェブベースの情報環境の利用者が増加することにより、この情報環境を販売チャネルとして活用することで従来の小売チャネルよりもPriceを下げることでValue/Priceを高めることを狙うEC事業者が登場した
    • 【モデル3-b】EC事業者の一部は、情報の蓄積能力/コストの向上を活用して、従来のチャネルよりも豊富な品揃えを拡充することでValueを上げ、Value/Priceを高めた
    • 【モデル3-c】EC事業者の一部は、情報の処理能力/コストの向上を活用して、従来のチャネルよりも容易な注文・決済の手段を提供し取引コストを下げることでValueを上げ、Value/Priceを高めた
    • 【モデル3-d】EC事業者の一部は、情報の処理能力/コストの向上と情報の蓄積能力/コストを組み合わせて活用して、商品のレコメンデーションの精度を向上させ探索コストを下げることでValueを上げ、Value/Priceを高めた
      • 参考: Alba et al. (1997)は、ECが、従来の小売のフォーマットよりもより多くの考慮集合の選択肢を提供し、それらの選択肢の中からより容易な絞り込み(スクリーニング)や定量的な情報収集、注文・配送における顧客の取引コストの低下を可能にしていることを示した。

 

(Alba et al. 1997)
    • 【モデル4-a】ウェブベースの情報環境の利用者が増加することにより、顧客間のインタラクションのコストを下げることでValueを上げ、Value/Priceを高めることを狙うソーシャル・メディア事業者が登場した
    • 【モデル4-b】ソーシャル・メディア事業者の一部は、情報の処理能力/コストの向上と情報の蓄積能力/コストを組み合わせて活用して、表示する情報の閲覧するユーザーの関心に対するマッチングの精度を向上させることでValueを上げ、Value/Priceを高めた
    • 【モデル4-c】ソーシャル・メディア事業者の一部は、情報の処理能力/コストの向上と情報の蓄積能力/コストを組み合わせて活用して、自らの投稿した情報に対する反応を知覚させる手段を提供することでValueを上げ、Value/Priceを高めた
    • 【モデル5-a】ウェブベースの情報環境の利用者が増加することにより、この情報環境を情報提供サービスとして活用することで従来の情報提供サービスよりもPriceを下げることでValue/Priceを高めることを狙う情報提供サービス事業者が登場した
    • 【モデル5-b】情報提供サービス事業者の一部は、情報の処理能力/コストの向上と情報の蓄積能力/コストを組み合わせて活用して、表示する情報や広告の閲覧するユーザーの関心に対するマッチングの精度を向上させることでValueを上げ、Value/Priceを高めた
    • 【モデル6】企業は、自社の製品・サービスの価値を伝達するために、従来型のチャネルやメディアを活用するとともに、利用者が増加したEC事業者やソーシャル・メディア事業者、情報提供サービス事業者を活用したり、これらの事業者が提供している価値を自社が主体で展開したりするようになった

 

  • 【視点1と視点2の照応-価値の選択】価値を創造するプロセスの中で、特に「価値の選択」の部分においては、以下のようなことが起こったのではないか。
    • 【モデル7】EC事業者やソーシャル・メディア事業者、情報提供サービス事業者から提供されるデータや、自社のサービスを通じて、ウェブベースの情報環境の利用者の登録データや閲覧・購買履歴データを活用することにより、従来よりも高い粒度のセグメンテーションに基づき、対象セグメントごとに、自社の提供する製品・サービスの価値を構成する要素(Value Driver)にフォーカスすることでValueを維持しながらPriceを下げ、Value/Priceを高めるようになった

 

  • 【視点1と視点2の照応-価値の提供】価値を創造するプロセスの中で、特に「価値の提供」に関連する部分においては、以下のようなことが起こったのではないか。
    • 【モデル8-a】ウェブベースの情報環境の利用者が増加することにより、この情報環境を社員間や部門間、取引先企業間のコミュニケーションとして活用することで従来よりも容易なやりとりの手段を提供し取引コストを下げることでValueを上げ、Value/Priceを高めることを狙うB2Bサービス事業者が登場した
    • 【モデル8-b】B2Bサービス事業者の一部は、情報の処理能力/コストの向上と情報の蓄積能力/コストを組み合わせて活用して、表示する情報や機能の利用する閲覧するユーザーのニーズに対する適合度を向上させることでValueを上げ、Value/Priceを高めた

 

  • 【視点1と視点2の照応-その他】価値を創造するプロセスの「価値の選択」「価値の提供」「価値の伝達」に横断的に影響するものとして、以下のようなことが起こっていたのではないか
    • 【モデル9】情報の流通能力が向上することにより、広帯域が必要とされるデータ(例: 動画)が活用できるようになることにより、主としてモデル3-a、モデル4-a、モデル5-a、モデル6、モデル7、モデル8aにおいて、利用者が知覚する価値を高めることでValueが上がり、Value/Priceが高まる
    • 【モデル10】情報の流通能力がモバイル利用においても整備され、端末の情報の処理能力が向上することにより、常時閲覧できるウェブベースの情報環境が実現することにより、主としてモデル2、モデル3-a、モデル4-a、モデル5-a、モデル6、モデル7、モデル8aにおいて、利用者が知覚する価値を高めることでValueが上がり、Value/Priceが高まる
    • 【モデル11】情報の流通能力がセンサー装置においても整備され、価値を創造するプロセスの中で「物理的な部分」と近接する情報が取得されることにより、主としてモデル8-aにおいて、利用者が知覚する価値を高めることでValueが上がり、Value/Priceが高まる
    • 【モデル12】情報の処理能力/コストの向上と情報の蓄積能力/コストを組み合わせて活用するデータ分析の技術自体が進化することにより、主としてモデル3-d、モデル4-b、モデル4-c、モデル5-b、モデル7、モデル8bにおいて、利用者が知覚する価値を高めることでValueが上がり、Value/Priceが高まる


資料:
Alba, J., Lynch, J., Weitz, B., Janiszewski, C., Lutz, R., Sawyer, A., & Wood, S. (1997). Interactive home shopping: consumer, retailer, and manufacturer incentives to participate in electronic marketplaces. Journal of marketing61(3), 38-53.

Lanning, M. J., & Michaels, E. G. (1988). A business is a value delivery system. McKinsey staff paper41(July).

Porter, M. E., & Millar, V. E. (1985). How information gives you competitive advantage. Harvard Business Review, 63, 149-160.

ランダム化比較試験はなぜ因果関係を証明できるのか

ランダム化比較試験はなぜ因果関係を証明できるのかについて、ジューディア・パール&ダナ・マッケンジー(2022)『因果推論の科学』文藝春秋にあった因果ダイアグラムを使った説明が面白かったのでメモ。

 

例えば、「畑全体に肥料1を一様に与えた場合、肥料2を一様に与えた場合に比べて、収穫量がどのように変わるか」〔P(yield|do(fertilizer=1))〕を予測したい場合に、以下の3つのモデルを使うと、ランダム化比較試験において何が起こっているかが理解できる。

 

  1. 調整が不適切な実験
    あまり深く考えることなく実験をすると、たとえば肥料1をやや標高の高い区画に与え、肥料2をやや標高の低い区画に与える→「水はけ」が交絡因子になる可能性や、ある年にある区画に肥料1を与え、次の年、同じ区画に肥料2を与える→「天候」が交絡因子になる可能性がある。同様に、土壌肥沃度、地質、微生物の数も交絡因子となる可能性がある。
    この世界は因果ダイアグラムを使うとモデル1のように表現される。
    例えば「水はけ」はどの肥料を与えるかと、どれくらいの収穫量になるかの両者に影響する。

    【モデル1】

  2. 本当に知りたい世界
    予測したいのは、全ての区画に肥料1を与えた世界=「肥料」に向かう矢印が消去され、「肥料」の変数を強制的に特定の値(ここでは「1」)に固定されている世界における収穫量である。
    この世界は因果ダイアグラムを使うとモデル2のように表現される。

    【モデル2】

  3. ランダム化比較試験によってシミュレートされる世界
    「肥料」の変数の値を、ランダムな選択をする道具(フィッシャーの場合はトランプのカードを使用)によって決める場合、do(fertilizer=1)になる区画もあれば、do(fertilizer=2)になる区画もあるが、どちらになるかの選択はランダムになり、このような世界は因果ダイアグラムを使うとモデル3のように表現される。
    引いたカードのみに基づいて肥料を選択するため、変数「肥料」に向かう矢印がすべて消えており、また、収穫される植物はカードを認識できないので、「カード」から「収穫量」に向かう矢印がない。すなわち、モデル3においては、「肥料」と「収穫量」の間の関係には交絡因子がない。

    【モデル3】

     

ランダム化されていない実験はモデル1のように交絡因子があり、私たちが予測したいのがモデル2だとすると、肥料1をどの区画に与えるかをランダムに決めるモデル3は、モデル2をシミュレートしているというわけである。

「コライダーバイアス」についてのメモ

ジューディア・パール&ダナ・マッケンジー(2022)『因果推論の科学』文藝春秋 の中に登場する「コライダーバイアス」という概念が面白かったので以下メモ。 

  • 「コライダー(合流)」は、2つのリンクでつながる3ノードのネットワーク(以後「ジャンクション」)における三つの基本型のうちの一つで、A→B←C(BがAとCの2つの変数から影響を受けている)という関係のものである。たとえば、ハリウッドの俳優には「才能→名声←美貌」という関係が見られるが、これがコライダーの例である。才能と美貌はともにその俳優の名声に寄与するが、才能と美貌の間には何の関係もない
  • コライダーにおいては、Bを条件付ける(例: ある値のデータを対象とする)と、AとCがそもそも独立していたとしても、互いに従属関係に変わるというものである。たとえばハリウッドの俳優の「才能→名声←美貌」の場合、Bにおいて、有名な俳優(名声=1)だけを見ると、その俳優の美貌が劣っているほど、才能が優れているという信念が高まる、すなわち、才能と美貌の間には負の相関が生じる。しかしながら、才能と美貌の間には何の関係もない
  • なぜこのような負の相関が生じるのだろうか。俳優が有名になるためには、才能と美貌の両方は必要なく、どちらか一つがあれば良いとするならば、すでに名声を得た俳優Aに素晴らしい演技の才能がある場合、それだけで彼の成功をうまく説明できるため。彼が平均以上の美貌である必要はない。あるいは、既に名声を得ている俳優Bに演技の才能がなければ、彼の成功を説明できるのはその美貌ということになる。したがって、名声=1の場合、才能と美貌は反比例の関係になる。こういった、Bを条件付けた場合に独立したAとCの間に生じる相関関係は、コライダーバイアスと呼ばれる
  • 次のような実験について考えてみよう。2枚のコインを同時に投げることを100回繰り返して、どちらか一方、あるいは両方が表だった場合に、その結果を書き留める。するとおそらく、75回分程度は記録することになるはずだ。記録を見て気づくことはないだろうか。どうやら、2枚のコインの表裏は独立していないようなのだ。コイン1が裏だとコイン2は毎回表になっている。なぜこんなことが起きるのだろうか。2枚のコインは、何らかの手段で、光のような速度でコミュニケーションを取り合っているのだろうか。もちろん、そのようなことはあり得ない。このようなことが起こるのは、両方が表になった場合を記録しないことにより、コライダーが条件づけられているためである
  • 私たちには、何かパターンを見出すたび、私たちはそれに対して因果関係で説明を加えようとし、データの裏には必ず何か常に変わらない安定したメカニズムがはたらいていると思いたいという癖がある。たとえば「XはYの原因である」というように、両者の間に直接の因果関係があるという説明があると満足し、もしそれがないとするならば、「XとYに共通の原因がある」という説明である程度満足する。この癖を持つ私たちには、コライダーが存在するという説明は弱く感じられ、因果関係を求める願望は満足しない。その説明をされても、2枚のコインが協調して動いているように見える理由は十分にわかったとは思えないのだ。コインは互いにコミュニケーションをとってはいないし、はっきり目に見えている相関関係は、まさに文字通りの「幻想」だといった説明にはどうしても失望してしまう
  • しかも、この幻想は、実は、自分の行動によって生じた「妄想」ということになる。データセットがどの事象を含め、どの事象を無視するかを自ら選択したことによって、ありもしない相関関係が存在するように見えたというのである
  • ここで例にあげた2枚のコインを投げる実験の場合、選択は意識的なものだが、私たちは、こうした選択を意識的にしているとは限らない。無意識のうちに同様の選択をしていることは非常に多いし、知らないところであらかじめ選択がなされている場合も少なくない。それゆえ、私たちは、コライダーバイアスに簡単に騙される

これまでの統計学の中で、「XとYに共通の原因がある」=交絡因子も因果関係を解明する際によく知られた「手強い敵」なのですが、このコライダーバイアスは、私たちが無自覚な思考の癖が関わっていることもあり、交絡因子とは異なったタイプの手強さを感じますね。

柄谷行人の「世界史の構造」の復習

柄谷行人(2022)『力と交換様式』 岩波書店 を読む前提として、この議論のベースとなっている、柄谷行人(2010)『世界史の構造』 岩波書店から、交換様式A-Dと、それと対応する権力(力)の種類、歴史的/近代の社会構成体、世界システムについて、以下整理しました。

 

 

A

B

C

D

交換様式

互酬
世帯や数世帯からなる狩猟採取民のバンドが、外の世帯やバンドとの間に恒常的に友好的な関係を形成するときに行われる、贈与と返礼など

略取と再分配
ある共同体が他の共同体の略奪を継続的にしようとするときに行われる、服従する共同体の他の侵略者からの保護や、灌漑などの公共事業

商品交換
共同体に拘束されない自由な存在である個人の間の、相互の合意に基づく取引。貨幣と商品の交換が一般的

X
交換様式Bがもたらす暴力への服従や身分の分裂、交換様式Cがもたらす階級分裂を超えて、交換様式Aを、伝統的共同体への拘束を否定しながら高次元で回復するもの

権力(力)の種類

拘束
各員は、生まれながら贈与された共同体に返済する義務を負い義務(掟)を破ると共同体から見放されることによる拘束

暴力
- 共同体を超えた共同規範(法)を機能させるために国家権力によって独占された実力(暴力。この実力はつねに法を介してあらわれる
- 支配者と被支配者の間で身分が分裂

貨幣の力
- 貨幣の所有者が商品の所有者に対してもつ権利。貨幣は蓄積できるが、商品は貨幣と交換されなければ廃棄されるほかないことから、貨幣の所有者が優位
- 貨幣の所有者は、他者を物理的・心理的に強制することなく、交換によって使役ができるようになり、貨幣を多く所有する者とそうでない者の間で階級が分裂

"神の力"
人間の願望や自由意志を超えた至上命令としてあらわれる

歴史的な社会構成体
(政治的な上部構造/
生産様式の下部構造)

無国家/氏族社会

- アジア的国家/王ー一般敵隷属民(農業共同体)
- 古典古代国家/市民ー奴隷
- 封建的国家/領主ー農奴

近代国家/資本ープロレタリアート

普遍宗教の創始期に存在した共産主義的な集団に近いもの

近代の社会構成体

ネーション
社会構成体の中で、資本=国家の支配の下で解体されつつあった共同体あるいは交換様式Aを、資本制の階級対立や諸矛盾を超えた共同性をもたらすために、想像的に回復する形であらわれるもの

国 家
「略奪と再分配」が「国家への納税と再分配」となり、王に代わって主権者となった「国民」は彼らを代表する政治家及び官僚機構のもとに従属すると形を変えながら存続するもの

資 本
贈与原理に基づく一次的な共同体の拘束から自由な存在である個人が自発的に形成したもの、例えば都市など。ただし、都市も二次的な共同体としてその成員を拘束するものとなる

X
自然発生的な評議会コミュニズム、共通の目的・関心を持つ者が集まり結びつくアソシエーションに近いもの

世界システム

ミニ世界システム
国家が存在しない世界

世界=帝国
単一の国家によって管理されている状態の世界

世界=経済(近代経済システム)
政治的に統合されず、多数の国家が競合しているような状態の世界

世界共和国
軍事的な力や貨幣の力によってではなく、贈与の力によって形成されるもの


柄谷行人 (2010) 『世界史の構造』 岩波書店 pp. 3-44.