及川直彦のテキストのアーカイブ

及川直彦が書いたテキストと興味を持ったテキストのアーカイブ

集合体(=アジャンスマン、アサンブラージュ、アレンジメント)の定義と二軸の説明の例

Hoffman and Novak (2018)の、スマート・オブジェクトと消費者の間の相互作用を集合体理論(assemblage theory))によって記述するパースペクティブを提案した論文をきっかけに、ドゥルーズとそれを解釈したデランダの集合体(=アジャンスマン、アサンブラー…

Hoffman and Novak (2018)のスマート・オブジェクトと消費者の間の相互作用についてのパースペクティブ

AIがもたらす新たな消費者行動について考える際に、Hoffman and Novak(2018)の、スマート・オブジェクトと消費者の間の相互作用を集合体理論(assemblage theory))によって記述するパースペクティブを提案した論文 "Consumer and Object Experience in the In…

全体性・内在性の関係性と集合体・外在性の諸関係 (DeLanda 2006)

DeLanda (2006)は、これまでの人文科学の歴史的な経緯によって私たちに染み付いている「有機体の隠喩」、すなわち部分と部分の関係が統一的な全体をもたらし、その全体性に部分が規定されるという「全体性」と「内在性の関係性」のモデルを批判し、それに代…

アレンジメント(アジャンスマン・アセンブラージュ)についてのメモ

生成AIと消費者行動について考えている流れで、Novak and Hoffman (2019)を読んでいる中で、"our view of consumer relationships with objects is grounded in assemblage theory"とあり、その中でDelueze and Guattari (1987)が言及されていた。 Delueze a…

パーソナライゼーションと生成AIについての整理

はじめに 生成AIのマーケティング活用に関する議論の中で、生成AIをパーソナライゼーションに活用することに期待するものを見かけることがある。この議論に対して、「その議論で前提にしているのは生成AIとは違うのでは」という違和感があるのは私だけだろう…

繰り返しとバリエーションの効果(続き)

前回の「繰り返しとバリエーションの効果」を書いたときに探していた、 "我々は「以前見たのと同じもの」だと認知されていて、かつ、よく見ると以前見たときから少し変化しているものを、より情報処理しやすい傾向がある」" というモデルの話の続きです。 そ…

繰り返しとバリエーションの効果

2010年頃だっただろうか、マーケティングではなく、認知科学系の研究者の方と話していて、 "我々は「以前見たのと同じもの」だと認知されていて、かつ、よく見ると以前見たときから少し変化しているものを、より情報処理しやすい傾向がある」という研究があ…

「Moat」と「競争優位」

私が「Moat」という言葉に触れたのは、以前に関わっていたスタートアップ企業の経営会議の議論の中だった。そのときに手元で検索したところ、確かこの記事に行き着いた。 newspicks.com "「Moat」は、マイケル・ポーターの「競争優位」と同じ意味ではないか…

「明白すぎる非連続性のジレンマ」

一利用者としてChatGPTを使っていると、その技術的な進化の早さ、そしてそれがもたらす利用者の知覚価値の進化の早さに感動すら感じます。 そんな「技術的な進化の早さ and/or 非連続性→利用者への提供価値の進化の早さ and/or 非連続性」が、ChatGPTを提供…

人工知能は創造的な思考を促進するか ―認知科学の観点から―

阿部慶賀(2019) の『創造性はどこからくるか: 潜在処理,外的資源,身体性から考える』(共立出版)を読んでいて、その中の第4章「外的資源としての他者」が、人工知能が創造的な思考を促進するかについて、認知科学の観点から整理できそうだと気づいたので、以…

「センスメイキング」についてのメモ

最近、ビジネスにおける創造性とは何かを考え直すために、「センスメイキング」について論じた本を読み直している。そんな中で、文化的な探索に基づいて洞察を深掘りしながらアイディアを生み出すことを提案しているクリスチャン・マスビアウの『センスメイ…

「β版による学習」と「実験に基づく意思決定」と「リーン・スタートアップ」

はじめに エリック・リースの「リーン・スタートアップ」を読んだ (Ries 2011)。 この本が2012年に日本で刊行されたとき、私の周囲でもこの本は話題になっていたのだが、当時私は、「リーン・スタートアップ」を、昔から知られている概念を別のキーワードで…

「ネットワーク効果」についてのメモ

数多くのMEGA TECH企業を育ててきたことで知られるシリコンバレーのベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)のゼネラルパートナーのAndrew Chenが書いた「ネットワークエフェクト」が、今日的なTECH企業の思考の本質を捉えていた本でし…

デジタル情報技術が価値創造プロセスに与えた影響の整理 (2023.2)

一般的に「デジタル」と呼ばれる情報技術が、企業が価値を創造するプロセスにおいて、1985年から今日あたりまでの間にどのような影響を与え、何が起こったかについて、ざっくりと整理をしてみました。 【前提】価値を創造するプロセスが「物理的な部分」から…

ランダム化比較試験はなぜ因果関係を証明できるのか

ランダム化比較試験はなぜ因果関係を証明できるのかについて、ジューディア・パール&ダナ・マッケンジー(2022)『因果推論の科学』文藝春秋にあった因果ダイアグラムを使った説明が面白かったのでメモ。 例えば、「畑全体に肥料1を一様に与えた場合、肥料2…

「コライダーバイアス」についてのメモ

ジューディア・パール&ダナ・マッケンジー(2022)『因果推論の科学』文藝春秋 の中に登場する「コライダーバイアス」という概念が面白かったので以下メモ。 「コライダー(合流)」は、2つのリンクでつながる3ノードのネットワーク(以後「ジャンクション」…

柄谷行人の「世界史の構造」の復習

柄谷行人(2022)『力と交換様式』 岩波書店 を読む前提として、この議論のベースとなっている、柄谷行人(2010)『世界史の構造』 岩波書店から、交換様式A-Dと、それと対応する権力(力)の種類、歴史的/近代の社会構成体、世界システムについて、以下整…

柄谷行人の「情報革命」についての見解

柄谷行人(2022)『力と交換様式』 岩波書店 の中から、いわゆる「情報革命」についてシニカルかつ本質的に言及している部分を備忘のために引用。 “ …たとえば、産業資本の場合、貨幣と労働力商品の交換において、労働者・労働組合の同意がなければならない…

統計的有意とともに効果量も大事

定量的な研究において、データの分析の中で統計的有意が論点となることが多いのですが、それに対して、統計的有意の検定とともに、効果量と信頼区間を示すことの重要性が指摘されています。 この指摘を解説した本として、 大久保街亜・岡田謙介 (2012) 『伝…

なぜ有意水準は5%なのか

なぜ有意水準で5%が使われるかについて、今日的な統計学を確立したFisherが1929年に書いている文章があります。以下引用し翻訳をしておきます。 ”In the investigation of living beings by biological methods, statistical tests of significance are esse…

楽しいことを考えている方が良いアイデアが出る

Waseda Business Schoolの修了生と輪読している、ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」の中で、ともすれば私たちの合理的な判断を阻んでいる”悪役”として描かれていた「システム1」が脚光を浴びる部分がある。 この話は、心理学者のサルノフ・メドニ…

飽和と忘却が形づくる「記憶曲線」

Waseda Business Schoolの修了生との勉強会で、ここのところダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」を輪読しているのだが、その中で、「繰り返された経験」が「認知容易性」を高めるという話について議論している中で、広告における「フリークエンシー…

「底が漏れるバケツ」がもたらしたアイデア

レスター・ワンダーマンの「売る広告」の中で、世界最大のばら栽培業者Jackson & Perkins(以後「J&P」)の通信販売のマーケティングにおいて、1950年にこのアイデアに出会ったこの場面も、マーケティングの歴史の中に刻むべきものであろう。 “ 一年がつつが…

ダイレクト・マーケティングの「スプリットラン」

先日のゼミで今日のデジタル広告の世界で「ブランディング広告」と対比して使われる「パフォーマンス広告」のルーツが、「ダイレクト・マーケティング」であることを紹介したのだが、それをきっかけに、レスター・ワンダーマンの「売る広告」の2nd editionの…

論理実証主義と反証主義

少し前にカール・ポパーの『科学的発見の論理』を読んでいて、その中で、ポパーが確率論に基づく帰納法について長々と批判をしている部分など、いまいち文脈が理解できていない部分があったのですが、野家啓一の『科学哲学への招待』の第9章「論理実証主義と…

統計学の科学哲学的な整理

大塚淳の『統計学を哲学する』が、統計学の代表的なアプローチである記述統計、推測統計、統計的因果推論について、科学哲学の文脈でわかりやすく整理していたので、以下要約しました。 観察されたデータを要約する記述統計 記述統計は、標本平均や標本分散…

仮説演繹法とアブダクション

野家啓一の『科学哲学への招待』の中で、私が携わる経営・マーケティングの研究において広く採用されている「仮説演繹法」と、その限界を補う「アブダクション」についてわかりやすく整理されていたので、以下要約しました。 仮説演繹法についての整理 <前…

実証研究の方法論が拠り所とする科学哲学の考え方の整理

藤井秀樹先生の「実証会計学の方法論 –科学哲学的背景の検討を中心に–」という論文において、今日の経営学やマーケティングにおいて使われている実証研究(empirical research)の方法論が拠り所とする科学哲学の考え方についてわかりやすく整理されていたの…

柄谷行人による「反証可能性」についての説明

カール・ポパーの「反証可能性」について、その本質を明快に説明していた柄谷行人の説明がありましたので、該当する部分の一部を備忘のため引用します。 “ たとえば、デカルトはすでに仮説を立て、それを検証する実験を考案することを主張している。したがっ…

「サピエンス全史」と「世界史の構造」を改めて読む

現在起こっている戦争を目にしながら、ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」と柄谷行人の「世界史の構造」の「戦争」に関連する部分を改めて読み返し、気になった部分を備忘として引用します。 まず、ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」の第…