及川直彦のテキストのアーカイブ

及川直彦が書いたテキストと興味を持ったテキストのアーカイブ

楽しいことを考えている方が良いアイデアが出る

Waseda Business Schoolの修了生と輪読している、ダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」の中で、ともすれば私たちの合理的な判断を阻んでいる”悪役”として描かれていた「システム1」が脚光を浴びる部分がある。 この話は、心理学者のサルノフ・メドニ…

飽和と忘却が形づくる「記憶曲線」

Waseda Business Schoolの修了生との勉強会で、ここのところダニエル・カーネマンの「ファスト&スロー」を輪読しているのだが、その中で、「繰り返された経験」が「認知容易性」を高めるという話について議論している中で、広告における「フリークエンシー…

「底が漏れるバケツ」がもたらしたアイデア

レスター・ワンダーマンの「売る広告」の中で、世界最大のばら栽培業者Jackson & Perkins(以後「J&P」)の通信販売のマーケティングにおいて、1950年にこのアイデアに出会ったこの場面も、マーケティングの歴史の中に刻むべきものであろう。 “ 一年がつつが…

ダイレクト・マーケティングの「スプリットラン」

先日のゼミで今日のデジタル広告の世界で「ブランディング広告」と対比して使われる「パフォーマンス広告」のルーツが、「ダイレクト・マーケティング」であることを紹介したのだが、それをきっかけに、レスター・ワンダーマンの「売る広告」の2nd editionの…

論理実証主義と反証主義

少し前にカール・ポパーの『科学的発見の論理』を読んでいて、その中で、ポパーが確率論に基づく帰納法について長々と批判をしている部分など、いまいち文脈が理解できていない部分があったのですが、野家啓一の『科学哲学への招待』の第9章「論理実証主義と…

統計学の科学哲学的な整理

大塚淳の『統計学を哲学する』が、統計学の代表的なアプローチである記述統計、推測統計、統計的因果推論について、科学哲学の文脈でわかりやすく整理していたので、以下要約しました。 観察されたデータを要約する記述統計 記述統計は、標本平均や標本分散…

仮説演繹法とアブダクション

野家啓一の『科学哲学への招待』の中で、私が携わる経営・マーケティングの研究において広く採用されている「仮説演繹法」と、その限界を補う「アブダクション」についてわかりやすく整理されていたので、以下要約しました。 仮説演繹法についての整理 <前…

実証研究の方法論が拠り所とする科学哲学の考え方の整理

藤井秀樹先生の「実証会計学の方法論 –科学哲学的背景の検討を中心に–」という論文において、今日の経営学やマーケティングにおいて使われている実証研究(empirical research)の方法論が拠り所とする科学哲学の考え方についてわかりやすく整理されていたの…

柄谷行人による「反証可能性」についての説明

カール・ポパーの「反証可能性」について、その本質を明快に説明していた柄谷行人の説明がありましたので、該当する部分の一部を備忘のため引用します。 “ たとえば、デカルトはすでに仮説を立て、それを検証する実験を考案することを主張している。したがっ…

「サピエンス全史」と「世界史の構造」を改めて読む

現在起こっている戦争を目にしながら、ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」と柄谷行人の「世界史の構造」の「戦争」に関連する部分を改めて読み返し、気になった部分を備忘として引用します。 まず、ユヴァル・ノア・ハラリの「サピエンス全史」の第…

「トロッコ問題」と「二重過程理論」ー「モラル・トライブズ」読書メモ2

20世紀の中頃の哲学(倫理学)に登場した「トロッコ問題」という問題がある。マイケル・サンデルの「白熱教室」でこの問題をめぐる議論を観た方もいらっしゃるだろう。 制御不能になったトロッコが、五人の鉄道作業員めがけて突き進んでいる。トロッコがいま…

「常識的道徳の悲劇」ー「モラル・トライブズ」読書メモ 1

ジョシュア・グリーンの「モラル・トライブズ」は、次のような寓話から始まる。 森の東の部族は、共同の牧草地において、どの家も同じ数の羊を飼育している。森の西の部族は、共同の牧草地において、家族の人数に応じて所有できる羊の数が決まる。森の北の部…

ミンツバーグ の「戦略クラフティング」を改めて読む

昨晩、私が教えているビジネススクールの修了生・在校生が参加している勉強会のメンバーから、「戦略立案の現場において、実際のところ、どれくらいMECEなファクトベースの分析が使われているのですか。どんなプロセスで戦略は立案されるものなのですか」と…

「膜=核=網」のモデルの整理

鈴木健氏が2013年に出版した「なめらかな社会とその敵」から、その鍵となる「膜=核=網」のモデルを整理するために、関連するテキストを再録します。 はじめに 「私的所有は、人類という種に固有の現象のように思われがちだ。だが、それは誤りである。私たち…

デジタル 情報技術が事業環境にもたらす変化を再考する

今から10年ほど前、まだ「デジタル ・トランスフォーメーション」という言葉が人口に膾炙する前に、デジタル 情報技術が事業環境にもたらす変化について整理しようとしていて、それを「マーケティング・ジャーナル」で発表し、その内容をもとに、講演などで…

内製とアウトソースに関する先行研究の整理 (draft1)

はじめに Kotler and Stigliano (2018)は、「リテール4.0」において、小売業の今日的なあり方を「デジタル技術を活用した『人間対人間』の取引」と論じ、その特徴として、伝統的な仲介を迂回し、コンテンツや商品を直接顧客に提供し、オンラインで取引を完結…

「ブランドの代替わり」と「リキッド消費」

Belk (1988)は、近代的な生活において人々が「何を所有するか」によって自らのアイデンティティ(自分らしさ)を定義・強化する消費行動を指摘している。人々は幼少期から特定のイメージを持つブランドの中から「自分らしいもの」を選び、所有することに自ら…

商品の価値とは何か

一昨日のゼミで話題になった「商品の価値とは何か?」 という問いに対して、関連する議論を少し整理した。 1) 商品の価値は生産者側で決まるのか、それとも消費者側で決まるのか 経済学において、商品の価値は、アダム・スミスやデヴィッド・リカードら「古典…

メーカーのサービス化について

2001年から2013年のコンサルタントだった時代に「メーカーがどのようにサービスに事業を拡大するか」というテーマのプロジェクトにいくつか携わったり、統括したりしたものだが、その後ソフトウェア、物流アウトソースなどサービス事業に身を置くようになっ…

鶏肉のマーケティング

1980年代から2000年代の米国のマーケティング関連の文献の中で、二つの鶏肉生産・加工会社のブランドを見かける。パーデュー・ファームズ (Perdue Farms)とタイソン・フーズ (Tyson Foods)である。 TB&P (Talk Business & Business)によると、2018年の調理用…

精緻化見込みモデルもしくは二重過程理論についてのメモ

昨晩のゼミでは、メンバーと購買行動プロセスについてしみじみと考えたのですが、その際に論点となった「精緻化見込みモデル」について補足資料を探していたら、日本マーケティング学会の「マーケティングジャーナル」によく整理されたレビューがありました…

「技術の社会的形成」についてのメモ

宮尾学先生の「技術の社会的形成」に関する以下の2つの文章を読みました。 宮尾学(2009)「製品カテゴリの社会的形成」『日本経営学会誌』24巻 pp.3-15. https://www.jstage.jst.go.jp/article/keieijournal/24/0/24_KJ00005877571/_article/-char/ja/ 宮尾学…

Perfumeファンのセグメンテーション仮説ver.1

Perfumeのライブに行くと、同じ会場にいる観客の中でも、複数の異なるタイプの顧客がいることを感じます。さすがにいつもの仕事や学術研究のように、調査票の50くらいの質問に回答いただいて因子分析をする手間はかけていないのですが、以下私のライブ、知人…

ジョン・スノウの文献(エビデンスに基づくコレラの防疫策の導出)

エビデンス(妥当な方法によって得られた統計データの分析結果に基づく科学的根拠)による問題解決の先駆者として、また、「疫学の父」として知られている、外科医ジョン・スノウの、コレラの防疫策を導出した分析の原典です。 水道会社のSouthwark and Vaux…

「誤差」に関する誤解

私が大学院で数多くの学術論文を読むようになったばかりの頃、どの論文も分析の結果ごとに、しつこく「統計的有意」について言及していたことに、少々驚いたことを覚えている。 それまで広告会社やコンサルティング会社で、統計的に意味のある数字となる目安…

内部妥当性と外部妥当性

学術研究やビジネスにおいて、ある要因(統計学では「独立変数」と呼ぶ)とそれがもたらす結果(統計学では「従属変数」と呼ぶ)の間に因果関係があるかどうかを、実験(例: ランダム化比較試験、非ランダム化比較試験、自然実験)に基づいて分析することが…

モーリス・メルロ=ポンティと安宅和人

今から三ヶ月ほど前に 安宅 和人さんの論考「知性の核心は知覚にある」が掲載されたDIAMONDハーバード・ビジネス・レビューが自宅に届き、それからしばらくして、この論考について熱く語られたコメントが私のfacebookのタイムラインに現れるようになりました…

「国民投票」の危険性

旅行中の機内で、Kindleに入っている本をなんとなく読み返していたら、少し前の柄谷行人が「国民投表」の危険性について書いている面白い文章を再発見したので、以下引用します。 1997年に近畿大学と慶応大学で行った講演に加筆したものだそうです。 ===== …

肥田日出生先生の「アメリカ経営学のリベラルアーツ」

肥田日出生先生の「アメリカ経営学のリベラルアーツ」(明治学院大学産業経済研究所 研究所年報 第34号 2017年12月)を読んで、私がマーケティングと呼ばれる領域に関わり、特に最近ビジネススクールで教壇に立つようになってから断片的に感じたり考えたりし…