及川直彦のテキストのアーカイブ

及川直彦が書いたテキストと興味を持ったテキストのアーカイブ

メーカーのサービス化について

2001年から2013年のコンサルタントだった時代に「メーカーがどのようにサービスに事業を拡大するか」というテーマのプロジェクトにいくつか携わったり、統括したりしたものだが、その後ソフトウェア、物流アウトソースなどサービス事業に身を置くようになってから、しばらくこのテーマについて考える機会がなかった。 一昨日の早稲田のゼミの中でこのテーマが論点になったのをきっかけに、久しぶりに数時間ほどこのテーマに関連する文献を読み返したり検索したらなかなか楽しかった。そんな中で見つけたものを以下整理する。

  • 「サービスへの移行に伴う3つのリスクとそれらを緩和する3つの戦略」(Sawhney et al. 2004)
    • メーカーがサービスに移行する際には、「自分たちに本当にそれができるか (ケイパビリティリスク)」「それを顧客は受け入れてくれるか (市場リスク)」「それで本当に儲かるのか (財務リスク)」の3つのリスクがある “The process of migration to services can be difficult and risky. To improve the chances of success, managers must be conscious of the risks involved and be well prepared to manage them. There are three major categories of risk: capability risk (the internal perspective), market risk (the customer perspective) and financial risk (the business model perspective). “
    • これらの3つのリスクを緩和するためには、組織戦略 (人材)、デザイン戦略 (提供するもの)、開発戦略 (プロセス)が勝負どころとなる “There are also three categories of risk mitigation strategy: organizational strategies (related to culture, people and organizational design), design strategies (related to design and architecture of the offering) and development strategies (related to the process of developing and testing new services).”

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(Sawhney et al. 2004)

これら3つの戦略の中で、デザイン戦略 ≒ どんなサービスを設計し、提供するとよいのかという問いに焦点を当て、この問い対して示唆を与えてくれそうなフレームワークを整理する
  • 「GEにおけるサービス事業の5つの発展段階」(小森・名和 2001)
    • 航空機用エンジン分野におけるGEのサービス事業は、当初は、自社のエンジン技術をベースにした自社製エンジンのみの長期メンテナンス契約が主体だった (プラットフォーム1 自社製品向けサービスの提供)
    • エンジンそのものの技術、パーツの製造技術およびメインテナンスのノウハウ全体をテコに、エンジンのメンテナンスとスペア・パーツの製造・交換サービスをバンドリングし、スペア・パーツを提供する事業を展開していった(プラットフォーム2 基本サービスのバンドル化)
    • GEならではの財務力をテコに、UCN、セルマ、アエロマスなどのサービス・ショップを買収し、その上で、航空業界で築いた信頼を活用し、プラット・アンド・ホイットニーやロールスロイスなど他社製エンジンの長期メインテナンス・サービスを提供するようになった(プラットフォーム3 他社製品向けサービスの提供)
    • 今後はエンジンのみならず、航空機そのもののメインテナンス事業に参入することが十分予想される(プラットフォーム4 アウトソーシング・サービスの提供)
    • 航空機用エンジン事業ではGEはプラットフォーム4までステップアップしているが、GEのホスピタル・マネジメント事業は、CTスキャンなどの大型医療診断機器の製造販売およびメインテナンスからスタートし、今では自社製品を超えて、さまざまな機器の調達やサプライ・マネジメントを病院に向けて提供している(プラットフォーム5 製品以外へのサービスの提供)
    • GEのサービス事業の発展においては、自社の組織が築いてきたコア・コンピタンスが鍵となっており、そのコア・コンピタンスをフル活用しようとするプロセスを採っている点が興味深い。 例えば、GEの航空機エンジン分野におけるサービス事業のステップアップのプロセスにおいては、内部資産である設計データベースやスペア・パーツの製造能力、財務上の強み、高度なエンジン技術、システマティックなメインテナンス・プログラム、対外関係である航空会社やFAA(連邦航空局)とのネットワークといったコア・コンピタンスをフルに活用している。また、ホスピタル・マネジメント事業においても、自社製品に関する調達やロジスティックスのスキル、病院との長期にわたる信頼関係がベースとなっている。 ステップアップの背景として、高いレベルの業績を追求する企業文化と、自社の強いところに絞って戦うという戦略の基本的考え方が徹底されている。常に自社のコア・コンピタンスに立脚するというポイントを逸脱することなく、儲からない分野に無理してまで進出していない

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小森・名和 (2001)

  • サービス機会導出マトリクス(Sawhney et al. 2014、下川 2010)
    • サービスによる成長の機会を探索するためには、顧客の活動と得られるもの(=顧客の活動の連鎖)に基づいて市場を再定義することが求められる “Companies seeking services-led growth should redefine their markets in terms of customer activities and outcomes. By adding or reconfiguring customer activities along a primary or adjacent activity chain, companies can find opportunities for growth.”
    • 顧客の活動の連鎖に基づいて市場を捉えることにより、新たなサービスを「どこで (Where): 既存の連鎖の中か外か」と「いかに (How): 既存の活動の再構成か新たな活動の追加か」で整理することにより、サービス機会を発見しやすくなる “Once companies are thinking in terms of the customer-activity chain, they can classify new services along two dimensions: the focus of growth (where does growth occur?) and the type of growth (how does growth occur?). The “where” question can be answered by thinking about primary and complementary, or adjacent, activity chains. For example, visiting a dealership is a primary activity on the auto ownership chain, whereas seeking insurance quotes is a complementary activity that falls on an adjacent chain. Service growth opportunities can be found on both chains and in two ways (the “how” question): first by adding new activities and second by reconfiguring existing activities.”

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下川 (2010)
  • 製造企業のサービス化戦略の分類 (三浦 2016)
    • “Iの市場型取引は、所謂、 製造企業の箱売りである。顧客との取引は断続的で、企業は顧客の使用過程に介在せず、相互作用は発生しない。顧客は企業が生産した既製の生産物を購入するため結果を消費している。例えば、 冷蔵庫などである”
    • “IIのシステム化では、取引は連続的であるが企業と顧客の相互作用は発生しない。例えば、コマツの建機にはコムトラックと呼ばれるセンサーと通信機器が標準装備されており、常時機器の稼働具合をモニターし顧客のコア業務が定常状態を保って順調に行われることを目的として提供されるサービスである(近藤 (2014))。複写機のコピー毎の支払の事例も企業と顧客の相互作用は発生しないが、 顧客の継続したニーズと支払により取引は連続 的である。前のサービスの結果が後のサービスに影響を与え、一定期間の間に提供物が改変されるという意味で、企業は顧客の使用過程に関わっている。連続的な関係性をとおし て顧客はプロセスを消費するが、この場合のプロセスは、 生産と消費の同時性といった企業と顧客の相互作用を扱ったプロセスとは区別されるだろう”
    • “IIIの問題解決型では、取引は断続的であるが企業と顧客の相互作用が発生する。デル・ コンピュータは他のコンピュータ・メーカーとは違い、ダイレクト・マーケティングの手法で、出来合いではなく、細かく顧客の要望にそったマス・カスタマイゼーションで製品を提供することを特徴としていたが、顧客の知覚リスクを低減するためにコールセンターのサービス水準を顕著に高めることで良い評判を得て、モノ製品自体の差別化を達成しようとした(近藤 (2014))。顧客との取引は断続的であるが、デルはコールセンターをとおして顧客の使用過程に介在し顧客との相互作用を形成した。顧客は企業との相互作用をとおして価値共創に関わるプロセスを消費している”
    • “IVのリレーションシップでは、取引は連続的で、企業と顧客の相互作用も発生する。IBM が製造企業からソリューションを中心とした情報産業に転換した事例は典型的である。また、GE のジェットエンジンはコマツと同様のサービスであるが、コマツは起きてしまった故障やトラブルに対する回復サービスであるのに対して、GE のサービスはコア 業務の遂行中に同時回復サービスが実行されることが特徴である(近藤 (2014))。企業が顧客の使用過程に介在し顧客と相互作用することで故障の前の対応を可能にしている。「アップルにおける iPod の成功は、製品自体の機能性や意匠だけでなく、音楽をオンラインでどこでもダウンロードでき、プレイリストを自由に編集することができる iTunes のサービスに価値があったためである」(貝原 (2013) pp.80-81)。顧客に操作や維持、より良い使い方の提案などをする場を提供している。連続的な関係性において企業と顧客は相互作用をとおして価値共創に関わり顧客はそのプロセスを消費している。顧客からのフィードバックは将来の商品開発にも反映されるだろう”

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三浦 (2016)

  • 統合的ソリューションとアドバンスド・サービス (西岡 2016)
    • “顧客のビジネスと戦略、そしてオペレーション上の問題点に対して、製品とサービスをバンドル化し、サービスを提供することをソリューションという(Foote et al. 2001)。「ソリューション」という概念は、製品とサービスをセットにしてサービスビジネスとして顧客の問題を解決しようとすることである(Acha et al., 2004)”
    • “一方、サービタイゼーションでは製品をサービスに統合してしまうことを試みている。つまり製品をサービスに統合した「サービス」がサービタイゼーションにおけるソリューションビジネスの方法となる。これにより製品とサービスは同じ目的を持ち、顧客のビジネス・オペレーションの能力が向上したり、コストが削減するといった新たな価値の追求に利用されることになる”
    • “この点で,単なるソリューションとサービタイゼーションにおける「ソリューション」は区別されなければならず,後者はその意味で「統合的ソリューション」、「アドバンスド・サービス」と呼ばれる”
  • アドバンズド・サービスにおいて顧客企業と協働するためのenablerとしてICT (西岡 2016)
    • “従来、技術は製品というモノを通してその価値を明示してきた。しかし、製造業のサービス化、そしてパフォーマンスベースサービスやアドバンスド・サービスの出現により、技術は様々な顧客企業に対するソリューションを提供するためのリソースの1つとなる。つまり,技術はある特定の製品や機械のために存在するのではなく、様々な顧客に応じた個々の異なるサービスを実現するためのリソースとして存在してくることになる。このことは技術を製品やサービスに直接的に作用するものではなく、間接的に他のリソースと組み合わせることで実現できるイネーブラー(enabler)としての役割が強調されることになる。このような技術への着目は,顧客企業の持つコア技術と様々なモノやサービスと協働するためのenablerとしてICT(Information and Communication Technology)への着目へとつながる”
    • “センサー技術を始めとする技術を既存の製品やサービスと統合することが着目される。最近では新しい技術、特にリモートセンサー技術とICTなどがアドバンスド・サービスとの関連についての研究が着目を浴びている。特にリモート制御・監視技術は、ハードウェア(e.g. センサーや無線などの通信制御を行う装置)とソフトウェア(e.g. データを収集し、それを伝達したりあるいは分析をしたり、制御するアルゴリズムも含む)の組み合わせで実現されるサービスは、大きくサービタイゼーションを進展させるであろう”
  • サービタイゼーションとICT (西岡 2016)
    • “現在ICTはその役割として、(1)様々な種類のデータを統合する能力、(2)大量・多様なデータを処理する能力、が着目されてきている.しかしながら、現実的には統合した多種多様なデータをどのように経営やマーケティングに利用するかが企業側の課題になっている。ICTの持つ大きな特徴は、顧客のビジネス・オペレーションや顧客や消費者に関するデータを「見える化」することができることである。従来、こうした膨大なデータは、一旦データを格納して分析処理を行うバッチ処理で行われていた”
    • “これからのICTは、(3)リアルタイム性と(4)ビジュアライズ性、という大きな特徴がより活用されるようになることで、新たな価値を顧客に提供することが可能となる。例えばプラント設備を管理するシステムにおいては、膨大なオペレーションデータをリアルタイムに分析し、作業員に分かりやすい情報を提供し、予防保全や危機管理に対する判断の重要な手助けをすることができる”
    • “次の段階では、(5)AIを使ったモデリング技術、によりリアルタイムで流れてくるオペレーション上のデータを分析し、必要な行動を作業員の指示なく行えるようになる。さらに、最終的には、気象状況や他の機器の状態、そして様々な自然・社会の因果関係を読み解き、周りの環境や状況変化に(6)自律的に(Autonomous)動作できるシステムが現れてくる”
この種の研究では、What (例: どんなサービスを設計し、提供するとよいのか≒Sawhney et al. 2014の「デザイン戦略」)についての研究よりも、How (例: いかに組織内のコンフリクトを緩和し、不足している資源を補うか≒Sawhney et al. 2014の「組織戦略」「開発戦略」)についての研究の方が、汎用的なモデルを特定しやすいためか、先行する傾向にある。事実、すでに紹介した論文でも、Howについては以下のようなモデルが提唱されている
  • サービス事業化のコア・コンピタンス (小森・名和 2001)
    • 5つのプラットフォーム(「プラットフォーム1 自社向けサービスの提供」「プラットフォーム2 基本サービスのバンドル化」「プラットフォーム3 他社製品向けサービスの提供」「プラットフォーム4 アウトソーシング・サービスの提供」「プラットフォーム5 製品関連以外のサービスの提供」)に則ってサービス事業を構築する際には、内部資源、スキル、対外関係の3つのコア・コンピタンスをフル活用することがカギとなる
      • 内部資源: これまでの事業活動を通じて、企業そのものに蓄積されている強み
      • スキル: 戦略上重要な業務を遂行するうえで培われてきた専門性の高い業務知識やノウハウ
      • 対外関係: 消費者や顧客企業、チャネル、納入業者など、企業を取り巻く外部プレイヤーとのネットワーク
    • GEのサービス事業の発展においては、すでに述べたようにコア・コンピタンスをフル活用している
      • 航空機エンジン分野のサービス事業において活用されているコア・コンピタンス
        • 内部資源: 設計データベースやスペア・パーツの製造能力、財務上の強み、高度なエンジン技術、システマティックなメインテナンス・プログラム
        • 対外関係: 航空会社やFAA(連邦航空局)とのネットワーク
      • ホスピタル・マネジメント事業において活用されているコア・コンピタンス
        • スキル: 自社製品に関する調達やロジスティックスのスキル
        • 対外関係: 病院との長期にわたる信頼関係
  • サービス化戦略の経路とサービス戦略のパターン (三浦 2016)
    • Iにおいて、CS(顧客サービス戦略)とAS(アフターセールスサービスプロバイダー)としての戦略はすでに整備されている
    • IからIIへ移行するためには、サービス戦略としてBPO(アウトソー シングパートナー)とCRM(顧客サポートサービスプロバイダー)としての戦略を追加する必要がある
      • “有体財利用権 (BPO) は、利用率が低い、保有コストが高い、品質の安定への欲求が高い場合に設定され、所有コストとの比較によっ て代替が左右される(山本 (1987)(2016))。また、 企業は資産所有のリスクを負担できるとき、 企業と顧客の両方が製品使用の結果をモニターできるとき、パフォーマンスベースのビジネスモデルが選択される (Cohen (2006))” “利用権の交換は別の効果もあり、使用毎に課金することによって 顧客との関係性が継続する”
      • “顧客を特定し顧客データや顧客の使用過程を情報化できなければ、CRMを追加することはできない。そのためIからIIへ移行するためには、提供する製品の特性を考え顧客との関係性を構築することで、顧客の使用過程を理解し情報化す ることが可能になる提供物の構成を開発する必要がある”
    • IからIIIへ移行するためには、サービス戦略としてR&D(開発パートナー)とBPO(アウトソー シングパートナー)としての戦略を追加する必要がある
      • “顧客との相互作用を形成し使用価値に関わる手立てとして、デルのコンピュータはダイレクト・マーケティングの手法を採用した。顧客データや顧客の使用過程を情報化し、その情報を利用して有体財の生産、流通を効率化することで、結果的に有体財が節約されマス・カスタマイゼーションを可能にした (R&D)”
      • “コールセンターのサービスは顧客の知覚リスクを低減し、問題の解決やより良い使い方を提案するなど顧客のプロセスを代替している (BPO)。情報の便益は顧客の情報利用能力によっ て、サービスの便益は利用状況の不確実性や品質の不均質性によって左右される(山本 (1987))。そのため高水準のコールセンターのサービスは、情報とサービスの便益に有効に働くと考えられる”
      • “製造企業において製品開発の初期の段階から消費者と相互作用を形成することは一般的ではなく、使用過程に関わる仕組みを作ることは費用として見合うかどうか、 サービス・プロセスのどこに消費者が応分の責任を負い、どこで賄えるのかを見極めることが重要であろう(山本 (2016))”
    • IからIVへ移行するためには, サービス戦略としてR&D(アウトソー シングパートナー)、BPO(アウトソー シングパートナー)およびCRM(顧客サポートサービスプロバイダー)としての戦略を追加する必要がある
      • “顧客との長期的な関係性を構築すると共に、使用過程に介在し使用価値に関わる手立てとして、利用権, サービスおよび情報の組み合わせが重要である”
      • “有体財からサービス、情報へ の移行する際には、製造企業として大きな戦略的、組織的転換が求められる”

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三浦 2016
  • サービス・パラドックス (西岡 2016)
    • “サービスに関連した投資を重ねているにも関わらず,相変わらずその収益構造は製品から生まれてくるものが主であり、サービスから得るものはほとんどない状態になることがある。これがサービス・パラドックスという状態である。ここでは、(1)サービス部門からの売上が伸びず、サービス企業への投資拡大にも関わらずそのリターンが得られない、(2)そもそもサービスを事業化したコストさえ回収できない、という状況に陥る”
    • “サービス・パラドックスの起こる原因の基本的な前提として、ビジネスにおけるサービスへの認識があげられる。サービスを製品差別化戦略の1つとして採用した場合、すなわちサービスはあくまでも製品の差別化要因として認識しており、そのため中心となる売上や利益は、主力製品から生まれてくるものであり、顧客も製品の機能・性能そして品質に満足しているという認識の場合である”
    • “さらにサービス部門の在り方である。従来、製品に付属したサービスをそのままビジネスとして分離、つまり製品とサービスからの売上と収益を別に管理し、ビジネスユニット化することは非常によく見られる事例である。これはサービスのアドオン化と呼ばれる方法であり、サービスをアドオンとすることで、製品そしてサービスの売上向上を見込むものである。これらの手法は本質的に製品ベースのビジネス構造となんら変わっていない、逆にサービスのアドオン化をすることでコスト増の要因となり、全体としての収益の低下が見込まれることになる”
    • “さらに経営者層のサービスについての考え方にも問題のある場合が多い。前述の(Gebauer et al. 2005)によると、以下のような理由で経営者層はサービス事業の拡大に積極的になれないとしている”
      • (1)期待する報酬: 良いものを作ればおのずと顧客はついてくるという考え方が強く、サービスに期待していない
      • (2)成果への期待確率: 多くの産業財取引の場合、その製品に関する商談が成功すると何億円以上の単位となるが、ビジネスのサービス化の売上規模は、それよりもはるかに小さい
      • (3)受け取る成果: 製造業において人的資源をはじめとする様々なリソースは,製品開発から製造、販売までモノをドミナントとして活動をしてきており、もしこれをサービスベースに経営を変えていくのであれば、人的資源の再教育が必要となり、新たな人材雇用が必要となる。設備についても、装置中心から大幅に変えていくことになる。経営者としては、現状を考えると、意識改革を含めた自らの持つリソースでサービス化を行うリスクを当然感じることになる。さらに、サービタイゼーションを行うためには,顧客と非常に密接な関係を作り、顧客企業のオペレーション情報をも扱うことが必要となるが,顧客企業はこうした自社の企業を他企業に開示することは嫌がる
How (例: いかに組織内のコンフリクトを緩和し、不足している資源を補うか≒Sawhney et al. 2014の「組織戦略」「開発戦略」)についての研究は、この他にも数多くありそうだし、モノのサービス化に限らず、イノベーション関連の組織論にも数多くの活用できそうなフレームワークがあるはずである。
その一方で、What (例: どんなサービスを設計し、提供するとよいのか≒Sawhney et al. 2014の「デザイン戦略」)についての研究が進み、その研究を活用することで、実務の成功事例が加速することを期待している。
 
参考文献
小森哲郎・名和高司 (2001) 『高業績メーカーは「サービス」を売る』 ダイヤモンド社, pp 45-47.
三浦玉緒(2016) 「製造企業のサービス化における類型化の試み サービス化戦略の経路とサービス戦略のパターン」『ビジネス&アカウンティングレビュー』 18, pp 39-58. https://kwansei-ac.jp/…/review/BandA_review_vol18_p39-58.pdf
西岡 健一(2016)「製造業のサービス化に向けて ~ICTによる製造業のサービス化促進~」『サービソロジー』3巻 3号, pp.18-23. https://www.jstage.jst.go.jp/…/serv…/3/3/3_18/_html/-char/ja


(2020年6月7日にFacebookに投稿したテキストを再掲)